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傷だらけの堕巫女−OCHIMIKO−

読了目安時間:8分

ようやく追手から逃げ込んだ先は、謎に満ちた大きな屋敷であった☆

二話 切り裂き魔の危険な遊戯! ①

二話 切り裂き魔の危険な遊戯! ①の挿絵1  首にコルセットを捲いた、痛々しい姿の蜥蜴男――土竜(むぐらもち)(ひとし)の心は暗く沈んでいた。  松葉杖を頼りに、文字通り重い足取りで長い廊下を歩く。任務を失敗した言い訳を、あれこれ考え続けいると、気分はさらに重くなる。  握りしめた(てのひら)は汗にまみれ、口の中はカラカラに乾く……そろそろ“中年”と呼ばれる世代に差しかかってきた男は、年甲斐もなく、今にもその場から逃げ出したい衝動に駆られていた。  気づくと彼は、『所長室』のプレートが掲げられた扉の前に立っていた。  意を決してノックすると、返答もないまま静かに扉が開く。深々と頭を下げた男は、おずおずとその中に足を踏み入れた。  勤続八年目にして初めて訪れた所長室だったが、先ずはその広さに驚く。扉付近には秘書の女が机に向かい、パソコンを眺めながら慣れた手つきでキーボードを叩いている。 「ああ、お疲れさま。そのまま、こっちに入って来てくれ」  その声に眼をやると、部屋の中央にはマホガニーの大きな執務机が置かれ、その奥でスーツ姿の男が背を向けて座っていた。 「そんな身体なのに、わざわざ出向いて貰って悪かったね、土竜くん」  男は土竜に背を向けたまま、振り向きもせずに感情のこもらない労い文句を発する。 「申し訳ありません、新所長。この度は思わぬ邪魔が入り……」 「そうだね。仕方ないよね? ()()()()()()()()()()んだものね?」  土竜の言い訳を遮るように、男は強い口調で言葉を被せた。その不遜な態度に土竜の全身は硬直し、言い訳を続けることができなくなってしまう。 「土竜君。僕がもっとも忌み嫌う言葉は何なのか、キミは知っているかい?」  突然の質問に土竜は何も答えられず、ただ口をパクつかせていた。 「……?」  虚ろに目を泳がせるだけのそんな態度に、男は深い溜息を()く。 「よく、覚えておいたほうがいい。『失敗』という二文字だ。それをキミは、一日に何度も繰り返してくれたんだよね?」 「も、申し訳ありません……」 「これが、新任早々の所長(ぼく)に対する嫌味でないとしたら、いったい何なんだろうか……? うん、あれだ。キミは、とても疲れているのかもしれないね。少し、働き過ぎなんじゃないのかな?」  凍りつくような言葉を次々と浴びせられ、土竜の全身からは妙な汗が噴き出してくる。 「い、いえ、所長。どうかもう一度、チャンスをいただきたい……この通り、お願いいたします」  土竜はその場に跪くと、頭を床に擦りつけて必死に懇願した。 「彼の有給は残っているのだろう? どうなんだい、佐伯(さえき)君?」  相手の土下座などまるで眼に入っていないかのように、秘書に土竜の勤怠状況を確認させる男。 「社員No.2150B09……土竜仁さんの有給残日数ですが、今年度はすでにありません」  女性秘書、佐伯(さえき)真紀奈(まきな)の冷淡な声が室内に響く。 「そうなんだ。だったら、特別に慰労休暇を付与しようじゃないか? ねえ、佐伯君。それならば構わないだろう?」 「社内規定では、年次有給休暇以外の長期取得可能なものとして、産前産後休暇、生理休暇、看護休暇、介護休暇、慶弔休暇、災害休暇……となっております」 「土竜君、ご家族は皆さんご健在かな? たまには家族サービスっていうのも悪くはないと思うよ。まあ“働き過ぎ”に関しては、僕にも責任の一端を感じているんだ。ここは何かしらの理由をつけて、私から二週間くらい“お休み”をプレゼントしようじゃないか。ああ、それと今朝の事故の件だけれど、なんとかこちらで処理しておいたから、キミは何も気にしなくてもいいからね。じゃあそういうことだから、もう下がって貰って構わないよ。お疲れさま」  床に頭をつけたままの土竜は、男の変わらぬ態度にどんな言い訳も通じないことを悟った。ようやく頭を上げて立ち上がると、全身の力が抜けていくような最悪の気分が彼を襲い、軽くめまいを起こす。 「それでは……し、失礼いたします」  肩を落としながら部屋から出て行く土竜に対し、男は相変わらず背を向けたまま無言で見送った。 「まあなんにしても、あの人はここまでだね。作戦の失敗よりも、事故のもみ消しの方が会社(ウチ)にとっては手痛い損失だ。佐伯君、彼のデータを処理しておいてよ」 「解雇理由は、“二週間の無断欠勤”ということで、よろしいですね?」  モニターに『土竜仁』の名前が表示されると、佐伯真紀奈はすべての項目にチェックを入れていく。男の返事を待たずにリターンキーを押すと、下段に『確認/実行』の文字が表示される――数秒後には、土竜仁に関するすべてのデータがモニター上から消えていた。 「それと、あれだ。北広島から誰か……鎌鼬(かまいたち)君がいいかな? うん、彼を呼んでおいてくれないか」 「畏まりました」  男に言われがまま、佐伯は眼の前にある電話機をオンフックにして電話をかける……それが繋がると、受話器を取って先方に用件を伝えていく。  電話相手と会話する彼女の声を聞き流しながら、男は徐に椅子から立ち上がった。窓に歩み寄ると、ブラインドの隙間を広げて外を眺める。  窓の外は、ススキノのネオンが眩いくらいに煌めいていた。 「今日も、世界は平和だ……今度ばかりは、たとえどんな犠牲を払ってでも、この穏やかな時間を持続させたいものだね」          ☆  ベッドに横たわる草薙(くさなぎ)遥夏(はるか)は、窓から差し込んでくる陽の光で眼を覚ました。  酷く身体が重い……頭は覚醒していても、途方もない倦怠感が彼女の全身を抑え込んで、直ぐには起き上がれそうもない。  謎の男たちによる襲撃から逃れた少女たちは、夜が明ける前にこの屋敷へ辿り着いた。空き部屋に案内されてからは、そのまま滞在し続けている。  来栖(くるす)玲子(れいこ)に促されるがままベッドに倒れ込むと、その後の記憶はない。どうやらカーテンを閉める余裕もなく、眠ってしまったようだ……眩しさを我慢しながら、遥夏は再び瞼を閉じる。  前日から続く災難に、彼女の全身全霊が疲れきっていた。そんな状態にあっても、枕に顔を(うず)めたまま、これまでのことを思い返している。  深夜に襲って来た男たち。兄の死と謎の組織との関係。さらには、来栖玲子の正体など……考えれば考えるほど、疑問は膨れていく一方であった。  そんな折、微睡の中で扉をノックする音が聞こえて、彼女の思考を強制的に停止させる。 「……はい」  上半身を起こした遥夏がそれに応えると、ノックの主だった玲子が扉を開けて顔を覗かせた。 「起きてる? ちょっといいかしら」  言いながら部屋に入ってきた玲子は、ベッドの端に腰を下ろすと、心配そうに少女の顔を覗き込む。 「おはよう、遥夏。少しは眠れた?」 「うん、もうぐっすりと……それよりも、ここはどこなんですか? 来た時はまだ暗くて、よくわからなかったんだけど……」 「ここは、私が働いている職場の上司……その人の屋敷よ」 「職場の? そんな所にお邪魔して、大丈夫なんですか?」 「まあね。そんなことより、もう起きられる?」 「あ、うん。大丈夫」 「それじゃあ下に朝食の用意ができているから、顔を洗ったら着替えて降りていらっしゃい。洗面所とトイレは廊下を出て左の端よ」  そう伝えると玲子は立ち上がり、部屋を出ていった。ようやくベッドから下りた遥夏は、重い身体に鞭打って着替え始める。  玲子には気づかれずに済んだが、先ほどから煩いくらいにお腹の虫が鳴いていたのだった。  部屋から出た遥夏は、改めてこの屋敷の大きさを知ることになる。  長く伸びた廊下の片側には、同じ(しつら)えの扉がずらりと並び、避暑地によくあるペンションのようにも思えた。  身支度を整えた少女は、言われた通りに一階へと向かう。絨毯張りで間口の広い階段を降りると、執事と思しき燕尾服姿の初老男が玄関ホールで待ち構えていた。 「おはようございます。草薙遥夏様……で、ございますね。ダイニングルームにて朝食をご用意しております」  はぁ……と、曖昧な返事を返した遥夏は、執事に案内されるまま食堂に向かう。  通されたダイニングは広く、二十人ほどの会食が可能なものであった。中ほどの席では、すでに朝食を済ませた玲子がひとり、コーヒーを手にしながらタブレットを操作している。 「こちらにどうぞ」 「あ、どうも……」  遥夏が戸惑っていると、執事から玲子の真向かいの席を勧められた。  間もなく食事が運ばれてくる……が、少女は直ぐには食事に手をつけず、眼の前へ出されたプレートを暫くの間無言で眺めていた。 「どうかした?」  その様子を見かねた玲子が、軽く首を傾げながら尋ねる。 「昨日、襲ってきた人たちが何者なのか教えてください。玲子さんは、奴らの正体を知っているんですよね?」  視線を眼の前のプレートに向けたまま、遥夏はずっと頭の中で渦巻いていた疑問のひとつを口にした。 「民間の警備会社しかない神威(かむい)恋問(こいとい)ならいざ知らず、ここは札幌ですよね? だったら今朝のことだって、警察に届けたっておかしくないじゃないですか。お願いです……玲子さんが知っていることを何もかも、全部私に教えてください」 「……」  少女の思いに圧倒されて、玲子は言葉に詰まった。思案の果てに、彼女の重い口がゆっくりと開かれる。 「そうね……わかったわ。食事が終わってからでいい? 遥夏に会わせたい人もいるから、この件はその時に話しましょう」  玲子はそれだけを言うと、口を噤んで席を立つ。  遥夏もそれ以上は何も問い(ただ)すことをせず、ようやく食事を口へと運ぶのだった。

2020/10/15改稿☆ ご意見、ご感想は何よりの励みになります☆ ご一読頂いた後、何かしら感じて頂けましたら、よろしくお願いいたします☆

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