Amazonギフトカードが当たる会員登録キャンペーン実施中!詳しくはこちら

名馬転生 ~異世界行ったら本気の追い込み見せる~

読了目安時間:3分

14

 野営の陣中に戻ってきた太郎彦は、あの斥候のことを山片に報告した。けっきょくは太郎彦も竹田軍の、それも下っ端である足軽のうちの一人にすぎないのだから、いくら情け深かろうと兵士としての責から逃れることは出来ぬ。  太郎彦からの報告をすべて聞いた山片は短く「捨て置け」と答えた。斥候一匹など、とるにはたらぬということだろう。  山片はそれよりも鹿毛の馬の存在に尋常ではなく興味をひかれた様子であった。 「おそらくそれは、高付の国にいた馬であろう」  戦国の世において、馬は移動する財産である。おおかた戦いの最中に逃げ出して、どこぞの百姓にでも拾われ、そこから売られたものであろう。あれだけ体躯のよい馬なのだから、きっと良い値で石村の城に買われたはずだ。 「なるほど、これが因縁というものか」  山片はひどく納得した様子であった。そして、あの鹿毛が相手なら、乗り手は太郎彦ではダメだと考えた。 「太郎彦、ここからはわしが金船号に乗る。異存はないな?」  太郎彦はうろたえて落ち着きなく体を揺する。 「はい、いや、でも……」 「落ち着け、別になにか粗相があったわけではない、ただな、太郎彦よ、お主はちいっとばかり金船を大切にしすぎる」 「それは山片様よりお預かりした大事な馬ですもんで、当たり前です」 「なるほどそれは当然のことよ、しかしな、戦場においては馬は刀や火縄といった道具と同じ扱いである、その道具にいちいち心を寄せていては戦いの時に迷いも出る、だからお主は金船を存分に走らせてやれぬのだ」 「おことばですが、山片様、おらほどうまく金船に乗れるやつぁいねえ!」 「上手いだけではダメなのだ、道具は時に、壊れても良いくらいの気概で思い切って振り切らねばならぬ。そうした時に太郎彦、お前の情の深さは邪魔になろう」 「でも、山片様、金船は道具じゃなくて、生きてるもんだ……」 「その通りである、だが戦場ではその理屈は甘えととられる」  つい、と山片は視線を落とした。 「太郎彦よ、今でも侍になりたいと思うておるか?」 「あの、いえ、あの……」 「臆さずとも良い。あの頃のお前は子供であったのだから、戦場がどのようなものか知らなかった、実際に足軽となってみてどうであったかを問うておる」 「おらは……自分は足軽よりも百姓に向いとると思っとります」 「正直者よの、太郎彦、よかろう、百姓になれ」 「良いのですか?」 「良いも悪いもわしが決めることではない、お前が決めることであろう。わしもあの頃は若かったが故、男であれば誰もが野心を腹に置いておるものと思うておった、だが最近はな、お前のように野心も邪心もない者もおるのだということをよく心得ておる、叱りはせぬ」 「そ、それはもしかして、おらを体よくここからおっぱらって、キンを取り上げようってことですか」  ふいと山片が顔をあげ、まっすぐに太郎彦を見た。 「取り上げるとは何事だ、あれは元よりわしの馬であるぞ」 「いや、まあ、それは、そうですが……」 「太郎彦、あきらめろ、あれは農馬になどなれぬ」  太郎彦は唇をぐっと噛んで下を向いた。山片はそれを見て、わずかに声音を緩めた。 「太郎彦、本当はわかっておるのであろう、金船号が何を望んでいるのか」 「わかって……おります。そして、その望みのためにはおらが乗り手じゃダメなことも……」 「ならば引け、ここから先は戦場、覚悟のないお前にはついてこられぬ場所ぞ」 「はい……」 「明日の朝いちばんで、お前は国に戻るがいい、そして金船のことは忘れよ」 「わかりました。でも今夜だけは……金船の側に居っても良いですか」 「好きにすればいい」 「ありがとうございます」  こうして太郎彦は金船と別れることになった。しかしこれは、戦向きではない彼の性質を考えればむしろ幸福だったのかもしれない。  太郎彦はその夜、金船の近くに藁をかき集めて作った寝床に潜り込んで眠った。そして翌朝、金船の鼻先を何度も何度も撫でて別れを惜しんでから、国に向けて戻りの道を行った。  おそらくこれが今生の別れになるだろうと、太郎彦も……そして金船も感じていた。

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • メリッサのミトラニア大陸漫遊譚

    定食屋の若き主人が語る驚くべき旅の物語

    11,500

    0


    2021年7月30日更新

    定食屋ポラールの主人であるメリッサ・ガーネットは、ミトラニア大陸中を旅して、不思議な光景を万華鏡に写し取ることを趣味にしている。 彼女は万華鏡を店の席に置いており、中に納められている風景に関して客から質問があると、嬉々としてその風景に関する話をはじめるのだ。 降り注ぐ月光を加工して作られた街、草原のど真ん中を突っ切る牛灯の群れ、人々の気配ばかりが満ちている神殿などなど……。 彼女の出会う風景はどれも奇妙なものばかりであり、聞く者を不思議な気持ちにさせるのである。 メリッサの語るミトラニア大陸の風景を是非、お楽しみあれ。 ※イラストはkarm0t様(@karm0t)に描いていただきました。 ※更新は、不定期になる予定です。

    読了目安時間:39分

    この作品を読む

  • 世界征服はお茶会とともに

    もし異世界に秘密基地があったら……

    600

    0


    2021年7月30日更新

    小さい頃、わたしは魔王になりたかった。 そして、そして世界を征服するのがわたしの将来の夢だった…… 小さな片田舎に引っ越してきた少女は、名をレナといった。 サファイアのような澄んだ瞳に映るもの全てが輝いて見えた。 そんな彼女の小さな世界に飛び込んできたのは、風車小屋の壁に開いた小さな抜け穴。 そこから続く森の中を進むと、木陰に隠れた古ぼけたドーム型のレンガ小屋があった。 その中にいたのは、魔王を名乗る小さな少年だった。 辺境の片田舎を舞台に、たった「ふたり」から始める「世界征服」の結末とは?

    読了目安時間:10分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る