ノーマディック・スプライサー

読了目安時間:16分

Case.43 クエスチョン

 エレベーターを使い、コクピットに近い中層部分へと向かう。  外へ出ると、差し向けられたロボの手からロフトへと飛び移る天才メカニックの姿が見えた。 「ランプ!」  ぼくが呼ぶと、彼女は眼鏡型端末(メカニカル・グラス)の下をパッと笑顔にしてこちらへと駆けて来た。  それからぼくの胸へと飛び込んで抱き着き……えっ!? 「アルツ! 解体させておくれよ!」 「はあっ!?」 「あんた、アンドロイドだったんだろう? それを聞いたらもう、居ても立ってもいられなくって! ほれほれ、早速ここでヤろうよ!」  ランプはぼくの手術着を引っ張る。吐息が荒くて熱いし、完全に目がイッってしまってる。 「こらこら、ランプくん。バラすのだけは勘弁してくれ」 「チッ、過保護な父親の登場か……。アロイス博士、お勤めご苦労様です!」  ランプは敬礼をした。 「今、何か失礼なこと言ったよね? ……まあ、いいけど。ここは軍隊じゃないんだから敬礼もいいよ」  ヒゲモジャの博士は苦笑している。 「博士、彼女はどうしてここへ?」 「スカウトしたのさ。細かい話は彼女から聞くと良い。お茶の仕度をしよう。長話になるだろうからね」 「あんたが行方不明になってるあいだに、何もかもが変わっちまったのさ」  そう言ったランプの表情は大きく翳った。  ぼくの行方不明が一般向けにオープンとなったのは、ノマドに連れ去られてから数日が経過してからのことだった。 「前線に出ていた際に撃墜され、遺体の発見はできておらず行方不明。不死鳥の名を持つ彼ならば必ず戻るだろう」  軍部の出した正式なコメントはこれだ。  一般の人間はこれで騙せるだろう。だが、欧州鹵獲班のメンツはそうはいかない。実際には前線に出るような作戦は行われていなかったのだから。  ぼくが所属していた欧州鹵獲班は解体となり、基地に詰める隊員の総入れ替えが行われた。  これは行方不明の公式発表の前日で、かなりの強行軍だったらしい。  ステルバー基地長官はそのまま続投、カミヤ機動班班長は南米ハンターズの空席のままだった班長の位置にスライドした。  多くの隊員は班長と同じように、よその基地に散り散りとなり、出向前よりも好待遇を受けている。  パーシモンは撃墜回数の多さからいよいよシートを外され、最前線の防衛基地のキッチンに放り込まれたそうだ。  プフィルとフージャオは上層部に招かれてから行方知れず。一般公開のプロフィールは残されており、所属がシークレットに書き換えられている。  ティーンは正式に脳科学研究所に移籍となった。  だが、基地に詰めていた常勤の軍医や、“記憶の部屋”の面々、そして欧州鹵獲基地の整備班長であり、アニマの開発主任だったランプは「生死不明」となっていた。  原因は「憎むべき攻撃」。彼らが一同に介した技術会議の現場が、アンチ・ドラマツルギーによって襲撃されたというのだ。 「まあ、言うまでもなくフロイデンの仕業だろうなあ。アルツが自分の正体に気付いたことを感付かれたんだ。ノマドも長くは隠せなかったんじゃないかな」 「あたしはもうダメだあ、おしまいだあってところで助け出されたってワケ。ここは良いよ。メカが弄りたい放題だからね。天国ってヤツ? あたしはここに来てから二ヶ月ちょい。あんたはあたしが来た時点ではもう、おねんねしてたよ」 「そんなに長く眠っていたのか……。ところで、クスティナはどうしてる?」  問うとランプは再び表情を昏くした。  テーブルに用意されたカフェインレスの紅茶は冷えてしまっている。 「彼が最初の行方不明者だよ。義足の装着もするまえだったから、動けるはず無いのにね」 「……」 「ティーンの荒れようったらなかったよ。オールドのマフィア映画を思い出したよ。ルネがなんとか宥めてくれたけど」 「……」 「ねえ、あんた、彼女のことは聞かないの? いちばん気になるはずでしょ?」 「正直言って、知るのが怖くてな。いつもの配信には出ていたが、それも二ヶ月前か……」 「あたしが最後に会った時点では、かなり凹んでたのは確かだ。あんたが行方不明になったせいでね。だけど、気丈なもんだよ。涙ひとつ見せずにティーンのことを励ましてたんだから」 「ルネはぼくがアンドロイドだったことを知ってしまったんだ」 「フラれたってワケ?」 「そんなことはないと思うが……。エンテが記憶を操作した可能性がある」 「ノマドね。あの子の話はアロイス博士から聞いたよ。だから、あんたがアンドロイドだったって話もすんなり呑み込めた。博士とフロイデンが何をしようとしてるかは聞かせてくれなかったけどね」  ランプは横目でアロイス博士を見た。博士は手を頭のうしろで組み、そっぽを向いて口笛を吹いた。 「ルネは人質みたいなものなのだろうか。ぼくをおびき出すための……」 「あたしもそうだと思うよ。あんたらを使って裏で何かの駆け引きが行われている。……さてと、アルツが起きたらやりたいことがあったんだ」  ランプは腰に提げたポーチからスパナを取り出した。 「解体は勘弁してくれよ。折角の新しいボディなんだから」 「あんたじゃなくってね……!」  スパナが飛んだ。 「痛あっ!? ランプくん酷いよ……!」  博士が額を押さえてテーブルに突っ伏した。 「あたしゃ、血の代わりにオイルの流れる女だってよく言われるけど、友人たちを危険な目に遭わせた黒幕に対してドライでいられるほど無情なつもりはないよ」 「博士のせいじゃなく、ぼくが悪いんじゃないのか?」 「あんたも巻き込まれたクチじゃないか。ノマドだってきっとそうさ。あたしの天才的頭脳と直感がそうだって言ってる。事情を話しな! さもなきゃ今度はトンカチだ!」  ランプは言うが早いか博士の頭に向かってハンマーを振り下ろした。  慌てて羽交い絞めるも、彼女は鎮まる気配がない。 「ぼくの拘束から逃げるのはまず不可能だ。暴れるだけ体力の無駄だ」 「無駄じゃない!」 「ケガをするだけだ」 「そうさ。ケガをする。それでも暴れてやる。  離せば博士の頭をカチ割る! 死んででもカチ割ってやる!  あいつもフロイデンも、あたしらみんなを使って何かやってるんだ。  目の前にでっかい“世界のしくみ”を隠したブラックボックスがあるのに、バラせないなんて我慢できるかよっ!」  ぼくの筋肉にとって彼女を抑え込むことはトレーニングにもストレッチにもならない。  だが、伝わる力加減から、今の羽交い絞めが彼女の肉体にとって危険なものだということは、筋肉と通じ合うぼくにはよく分かる。 「……参ったな。博士、ぼくも事情は知りたい。  ノマドの好きにさせてやりたいのは分かりますが、なんとか話してもらえませんか。  ぼくはランプに対しても愛着がありますし。彼女のおかげであのロボットが完成したというのなら、この腕を放すのもやぶさかではありません」 「分かったよ。私もアンドロイドでもなければ、血がオイルでもないからね。自分の命も惜しいし……」  博士は頭をさすり、給仕用のアンドロイドを呼びつけて氷嚢と代わりの温かいお茶を持ってこさせた。 「……まず、私の年齢は七十七歳だ」  博士は茶をひとすすりすると言った。 「公式のプロフィールでもそうだね。でも、二ヶ月のあいだ顔を突き合わせて分かった。その顔は老人のものじゃないでしょ」  ランプが首を傾げる。 「だが、七十七年生きているのは事実だ。ロボットでもないよ」 「若作りするにしちゃ、ヒゲも髪も放置してるみたいだけど……」 「私は自身の身なりにたいして関心を持っていない。これは天然のものなんだよ」 「突然変異や病気かい?」 「これは突発的なものではなく、作為的なものだ。  私の頭脳の発達速度が速いのも、歳を重ねても身体にガタがこないもの、全てはオールド・テクノロジーのたまものだ。  といっても、医療の力ではない。現代に確定しているものよりも遥かに高度な遺伝子工学に基づくものだ」 「“フルスクラッチ”か……」  ランプが呟いた。 「その通り。私は遺伝子や細胞の全てを一から百までクリエイトされた人間だ。それはもう、人間と呼んでいいものかどうか分からないけどね」 「ロボット工学の大天才の秘密ってワケか。でも、八十年近くも前に、すでにそんな技術が復旧されてたなんて話は聞いたことがないよ」 「今もサルベージされていないよ。失われていなかった(・・・・・・・・・)というだけのことさ。その技術を持った存在は、まだ生きている」 「そのヒトは何歳なのさ? まさかアンドロイド? フルスクラッチで人間を作るのだって、一年や二年でできることじゃないでしょ?」 「正確な年齢は知らないが、最低でも二百数十年は生きてるだろうね」 「オブリビオン・ウイルスのパンデミック以前から……。ま、オールドの技術ならありうるのかね」  ランプは爪を噛む。何か考え込んでいるようだ。 「博士は七十七歳と言いましたが、それはある男と同じ年齢ですね?」  ぼくは問う。  その“ある男”も歳の割には若々しく見えた。そして、博士と同じく才能に溢れている。 「その通りだ。シャーダ・フロイデンもまた、私と同じフルスクラッチの人間だ。我々はある目的をもって、ある御方に作られた。その目的は……人類を導くこと」  パンデミックの渦中、世界の混乱は酷いものだったが、誰しもが人類の技術を信頼しており、ウイルスさえ根絶できれば元の暮らしに戻れると信じていた。  しかし、ウイルスが去ろうとも健忘の症状が残り、遺伝子レベルでの永久の改悪が起こるという最悪のイレギュラーが訪れる。  自分たちの脳が信用できなくなった人類は、目下の問題にだけ気を取られて、その後の社会の変化についての議論も充分になされなかった。  すでに遺伝子工学も機械工学も穴だらけ。人類は衰退するのみとなった。  だが、一部の技術者の中にはこれらを予測し、いち早く自分や近親者だけ守った者があったのだ。   「全てを知る彼らは集まり、今後の人類のゆくすえを決めねばならなかった」  大きく分けて選択肢はふたつ。遺伝子工学により健忘を修正するか、機械装置の装着によって脳をサポートするか。  まず前者が試されたが、後世まで上手く遺伝しなかった。加えて、すでに生まれてしまった既存の人間にも適応できなかった。  ある博士は「正しい脳」を調べることで、遺伝させることも成長しきった人間に適応することも可能になると言ったが、「正しい脳」を持つほかの“全てを知る彼ら”は非協力的だった。  彼らは装置装着の案を強く望んだ。  どちらにせよ、健忘の問題は待つことができない。多数派を占める者たちによって“エビングハウス回路”が開発された。 「当初の予定では、回路は遺伝子修正技術の完成までの繋ぎであり、知識のインストールも行われないはずだった。だが、回路派は人類のレベルアップを望んでいた。揉めているうちに、遺伝子派の者たちは何者かの手によって殺されて始めてしまった」 「何者もクソもないですね」 「ははは。その通りだね」  しかし、回路派の人間には想像力が足りなかった。  エビングハウス回路にもまた、弱点となる物質が多数あったし、人類は思ったよりも疑り深く、文化や文明を手放し始めてしまった。  回路派の人間も不老不死ではない。彼らやその家族も死を迎え、子孫はウイルス変異を受けた人間と交わることで「正しい脳」も消滅してしまった。 「だけど、遺伝子派の博士の全員が殺されたわけじゃなかった。失踪扱いになっていた一人の博士は、ある特殊な存在となることによって生き延びていたんだ。それが、私の言う“ある御方”である“ハイマー博士”だ」  ハイマー博士は衰退を始めた人類を憂いた。  人類は回路によって忘却にストップが掛けられ、オールドの技術や文化を取捨しながら新しい文明をスタートさせていたが、彼から見て、その世界は明らかに「寒いもの」だった。 「手放された悲しみや怒り。極端な個人主義。横並びの子供たち。オールドに張り合って隠される病や犯罪……」 「それはぼくもよく思います。非加盟国のゲットーで暮らすヒトたちのほうが、まだ温かかった」 「あれが正解とも思えないけどね。  それで、ハイマー博士も最初のうちは、回路を手放さない選択も視野に入れていたらしいけど、  回路を拒んだ存在……非加盟国との摩擦が人類同士の争いを復活させてしまっていたし、  それが社会構造的に大きな後退の兆しをみせていたことから、やはり回路を手放すべきだと考えを改めた」 「アンチ・ドラマツルギーは戦いを生む悪だとは思いますが、非加盟国の全てを嫌うのは違うと思います。宗教やイデオロギーの食い違いで、互いを抹消することを是とするのは、ハイマー博士の言う通りに、あまりにも寒いことだと思います」 「そう考えない人たちも居るけどね。  社会的な善悪の定義は当然、社会という基盤に突き刺さった軸を中心に決められる。  社会自体が変化すれば、ファッカ教のような考えが正しいということにもなる。  現時点では地球は地球外との文化と交流を持っていないから、  地球圏という括りの中だけで全員が幸福に完結できれば、そこで社会はパーフェクトとなる。  ファッカの教えは同じ全体主義であっても虐げられる者が必要な独裁制とは違って、  全員を教化すれば最終的には全てのヒトの幸福を満たすから、  永久に発展して広がり続ける現社会の方針よりも正しい位置にあるといえる」 「博士たちはファッカ教を支持するんですか?」 「ノーだ。私たち科学者は、その先を考えるからね。  少しフィクションな話になるけれど、地球が他の星の文明と交わりを持つようになった時、  排他的な考えの一神教では“無限の戦争の時代”へと突入してしまう。  もっとも、これは相手の文化や方針にもよるから、ファッカでなければ平和だということでもないんだけれど……」 「少なくとも、ファッカの世界になった場合は、大きな危機が訪れると、神が助けなければ、アイデンティティの崩壊へ繋がりますね……」 「そしてそれは社会構造の破滅にもつながる。  だから、人類は来るべき時に対抗できるだけの技術や経験値を蓄えておく必要がある。  そのためにはどちらかを抹殺してしまわず、常にバランスを取り続けなければならない。  このほうが、他星の文明とも上手くやりやすいだろうし」 「アンチ・ドラマツルギーも残しておくってこと!?」  ランプが声を上げた。 「まさか。あれは社会のマクロ化の妨げになるよ。ああいうのはゼロにしても自然に湧いてくるもんだ」 「それならいいけど……。でも、フロイデンもアンチを倒す方針だよね?」 「この戦争は、あくまで宇宙時代に突入したのちの人類のためのデモンストレーションに過ぎない。  手を取ることを選ぶか、“最終解決”を選ぶか。問題は、“どちらが正しいか”ということじゃない。  人類が、個人と社会の両方がこれに対して真摯に思考し、“選択することができるようになれるか”だ。  知性を持たない怪獣やウイルスのようなものに反射的に融和を訴えれば滅ぼされるし、  分かり合える相手でも、武器を携えていると台無しになる可能性だってある……というのが私の意見(・・・・)だ」 「フロイデンは違うのですか」 「そう。彼は“人類に選ばせる”のではなく、“自分が決める”ことを選んだ。彼は自分に従う人間を集め、ビッグ・データやアンチ・ドラマツルギーからオールド・テクノロジーをサルベージし、提供し続けている」 「アンチも?」 「そうだ。彼らのいう“憶える者”にはフロイデンの息の掛かった者もいる。  互いの勢力を喰い合わせて人類の選別を行いながら、技術発展を促す。  演説もプロモーションもその一環だし、ヤツは戦争を終わらせる気もない。  うちのノマドが居れば終戦も容易いはずなのにね。  彼が目指すのは、あらかじめ“無限の戦争の時代”に人類を慣らしておくことだろう。  回路があれば全員を冷徹な兵士にすることも不可能じゃない。全ては彼のシナリオ通りというわけだ」  ……腹の底から怒りが沸く。戦いで傷付き命を落としてきた人々。それらを心配し悲しんだ人々。そして、それを忘れなくてはいけなかった人々。敵味方は関係ない。  隣の席からも爪を噛み割る音が聞こえた。 「非加盟国の勢力は配役ナシ(アンチ・ドラマツルギー)なんて名付けられているけれど、  実際のところは連合と陰陽図のような構図を作り出し、互いに正義と悪役を担っている。  今の社会は究極の個人主義の一歩手前だ。そこに不安が入り込めば、人々は“絶対の指導者”を求めてしまう。  非加盟圏には唯一神が居て、連合圏ではまさにフロイデンの独裁状態だ。  全体主義の果ては群体を個体とすること。それはマクロではなくミクロへの反転だよ。  求めるべきは、個が個でありながらも全を構成する形だ」 「彼のやりかただと、神や自分が消えれば計画は瓦解するんじゃありませんか? フロイデンはそれに気付かないのでしょうか?」 「どうかな……。フルスクラッチゆえの優越感に呑まれたんじゃないかな。  オールドの技術を使えば不老不死になれるかもしれないし、彼は神にでもなるつもりかもしれないね。  私は上から引っ張るよりも、下から支えるほうが好みだったから、  人類を見守りながら技術発展を手助けする立場を選んだ。  だけど、放っておいて上手くいくはずもないし、フロイデンのやりかたが正しいとも思えない。  それはハイマー博士も憂慮していた。  だから博士は、選択の余地を提示するために、私にふたつの可能性を作ることを命じたんだ」 「それがアルツとノマドか。……ふたりに何をさせようっての?」 「何も。私は好きにやってもらおうと思ってる。ヒトを学び、社会を知り、フロイデンや私の考えを知った今、アルツが正解に一番近いところに居るんじゃないかな?」 「ぼくは……ヒーローになることを求めています。でもそれは、軍からのオーダーで、戦いを望むことで、フロイデンの考える絶対の指導者や独裁に繋がることじゃありませんか?」 「どうかな? キミ単体ならそうかもしれない。不死鳥がプロバガンダに利用されたのと同じ結果になるだろうね」 「ノマドが居れば違う結末があるかもしれない……。仮にうまく行ったとして、ヒトは回路を捨てて生きることが可能なんですか?」 「ハイマー博士は研究をやめていない。もっとも、身体の自由が利かなくなってるから、机上論のままで、完成にはもう一押しが必要らしいけど。だけど、問題は技術的な点ではなく、人間の精神的な面にあると考えていらっしゃる」 「精神……」 「今の人類は、負の感情を消去しないで生きるのが難しくなってしまっている。  回路のためにやっていたことが、依存(アディクト)になってしまってるのさ。  負の感情は安定とは正反対の位置にいるし、それを受け入れることで、かえって世界が正解から遠ざかる可能性だってある。  だから、私やハイマー博士の推す方法もやってみなくちゃ分からないというところも多い。  だが、フロイデンのやろうとしていることは、彼が死んだあとのことが考慮されていない。失敗は約束されているようなものだ」 「アロイス博士やぼくらの存在が邪魔だったら、どうして殺さなかったのでしょうか? その気になればできるはずですよね?」  博士は問い掛けられ、いかにも「意外」というふうに眉を上げた。 「そりゃキミ、人間としてクリエイトされた以上は彼にもプライドがあるからね。同じ使命を持って生まれながら、彼は産みの親と別れたわけだし。私と真っ向から戦って、勝ちたいんだろうさ」  アロイス博士は頭に押し当てていた氷嚢をテーブルに置き、代わりにカップを傾ける。 「箱のしくみは分かった。世界がゲーム扱いなのが気に入らないけど、あんたが酷いプレイヤーじゃないってことは納得したよ。あたしはあんたにつくよ」  ランプも茶を飲み、バッグから汚れた絆創膏を取り出すと博士のモジャモジャの頭に引っ付けた。 「さあ、アルツはどうしたい? 何になりたい? キミの“たましい”の声に耳を傾けるんだ。それを実行するだけの力は私たちが用意するからね」  博士はニコリとぼくに笑いかけた。  言うまでもないだろう。ぼくはアルツだ。これまでも、これから先も。 「いいね、自信に満ちた顔だ。ただ……片割れの考えてることがサッパリ分からないのが問題なんだよね」  博士の頭にクエスチョンマークが見えた。多分、ぼくの頭の上にも同じものが見えるだろう。 ***

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