思出怪談

うらぼんえ 其ノ壱 忌事

昔、ある村に美しいが淫らで傲慢な女がいた。 女はその美貌を鼻にかけ自分以外の全てを見下すような横柄な振る舞いをしていたため表向きは忌み嫌われていたが、裏では老若男女を問わず関係を持ちその見返りとして金銭を受け取って身を立てていたという。 女の名は夜銀(やしろ) といった。 夜銀には身寄りがなかった。 一度村から都に移り住み、程なくして出戻った女が連れ帰った娘である。男親のことは村の者は誰も知らない。女親の方も夜銀が十五のときに鬼籍に入った。 それから夜銀は誰にも頼らず一人で生きてきた。 頼れるのは自分の身ひとつであった。 成長するにつれて夜銀の周りを若い男たちが取り巻くようになったが、夜銀が彼らのことを本気で相手にすることはなかった。 友人と呼べる者がいたこともない。 同じ年頃の娘たちにとって夜銀は恐怖の対象であったという。 夜銀は誰よりも美しい少女であるというだけに留まらず、気性においても彼女に太刀打ち出来るような娘は村に一人もいなかった。 おまけに夜銀には非常に陰湿で残忍なところがあり、彼女の機嫌を損ねるとどんな目にあわされるかわからない。 夜銀の振る舞いを不満に思っても隠れて陰口を言うことくらいしか出来なかった。 そんな向かうところ敵なしと思われた夜銀であったが、突如として呆気ない最期を迎えることとなった。そのとき夜銀は十九歳になったばかりであったという。 夜銀の骸が見つかったのは空が白んできた早朝のことであった。 見つけたのは夜銀よりも一つ歳の若い娘である。 夜銀の体には激しく暴行を加えられた跡と首を締めたような痣が残っており、衣服も身につけていない状態で路に打ち棄てられていたという。 犯人はわからなかったがおそらくは痴情のもつれだろうということになった。 夜銀の素行の悪さは村の誰もが知るところであったし、いつこのようなことが起こってもおかしくないと皆が思っていたのだ。 そして村人たちはこの事を隠匿することに決めた。 犯人が誰であったとしても村の人間には違いない。幸い夜銀には訴え出るような家族も友人もいない。ならば事を荒立てることはないということだ。 夜銀の骸は男衆が山へと運んでいって埋めた。夜銀が住んでいた家にあった物で価値のありそうなものは村人たちに分配し残りは残りはやはり山に捨ててしまい、後には空のあばら家だけが残った。 そうして夜銀という女は初めからいなかったことにされたのである。

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