聖欲闘技 ~セイント&バイオレンス~

第二ミサ

新曲

「リーフルさん♡ んっ、んちゅっ、んーっ♡」 「ん……っ、スミレー、なぁ、ちょっと……んっ、んむぅ……っ」  完治魔法(リザレクション)ですっかり全身の傷も疲れも回復し、意識も取り戻した二人は、早速控室で乳繰り合っていた。というより、一方的に乳繰っていた。 「あー。聖欲闘技で負けた聖闘技者は、勝った奴に一晩は好きにされるってェ不文律があるから仕方ねェな。嘘だけど」  弟子の勝利をこの目にして、素直に称えるべきか、まだまだ甘いとぶっきらぼうに対応すべきか――まぁ、その場のノリで決めればいいかと引き上げた二人を見舞いに行くと、目の前の茶番に遭遇した破壊者(ザ・クラッシャー)イヴであった。 「ほらスミレー、嘘って、嘘だって……んむっ」 「んー、ちゅっ♡ ちゅっ♡ ぷはぁ♡  もう、何ですぐ言っちゃうんですか師匠。私の初勝利記念をもっと堪能させてくださいよ」  なるほど、称えられるのはお望みではないということか。  お前の気持ちはよくわかったと、イヴはギチッ、と眉を(しか)めた。 「なにが初勝利だ、あァ? 極東諸島()でやってた人間が、マジの新人(ルーキー)相手にぽこすか好き勝手殴られといて良くまァ堂々言えたモンだなァ?」 「私が新人と同レベルだから、新人扱いでデビューしてるんじゃないですか! 強かったらアマリエさんみたいに外敵扱いでメーン張ってますよ!」 「胸張って自分(てめェ)は弱いですって宣言してんじゃねェッ!」  スミレーの相手がイヴと彼女の拳骨へと移ったことで、リーフルはようやく一息ついて二人のコントを眺める側に回れた。  その顔は案外すっきりとして、憑き物の落ちたような趣がある。 「私は、難しく考えすぎていたのかも知れないな」 「そうですよっ! Hも気持ちいい。殴る蹴るも気持ちいい。  一緒! ね!」 「それはちょっと簡単すぎるかな」 「ぎゃふんっ!」 「ぎゃふんて」  勝ちミサの直後ともあれば已む無しと言うべきか。  スミレーは日頃はある程度気にしている慎ましさの猫っかぶりをおおよそ脱ぎ捨て、人肌大好きな甘えたがりの本性をあけっぴろげに晒しきっていた。  大好きな師匠と大好きなリーフルに挟まれてテンション最高潮となった彼女を正気に戻せるものがあるとしたら、それは唯一つしかありえない。  その唯一つが今、遠隔幻影投影術具(テレヴィジョン)のモニターの向こうで始まろうとしていた。  スピーカーから響き渡る大音量。 『さァァァアアアアアッ! 祭壇への修復魔法(リペア・オブジェクト)も掛け終わり、今ッ!!!! 次なるミサへの準備は万端整いましたッッ!!! 第一ミサを見事な技とタフネスの競い合いで飾ってくれました同期の二人に続くことが出来るのかッッ!!! 次のミサも新人(ルーキー)たちの競演ですッッッ!!!!!』 『一人はこないだ、アマリエのミサの後に出てきた娘ですね』 『そうですッッ!! 先日行われましたローズ・マリーローズへの挑戦権を賭けた破壊者(ザ・クラッシャー)イヴと影狼(かげろう)アマリエの壮絶なるフィニッシュのその直後ッ!! 倒れるアマリエの傍に付き添う小柄な影こそ本日デビューの新たなる聖闘技者であったのですッ!!!! 果たして彼女はどの様なミサを見せてくれるのか、その入場シーンからもうっ、目が離せませんッッッ!!!!!』 「うわぁ、ピィちゃん、出る前からもう注目されてますねぇ」 「そりゃそうだ。あいつだけはもう、デビュー前じゃねェからな」 「……一昨日の乱入が、実質的なデビュー?」 「そォだろ?」 「そぉですね」  次のミサが始まる様子を見せた途端、先程までの馬鹿騒ぎが一転、真剣な面持ちでモニターを見つめる二人の師弟の姿を見て、リーフルは何だか申し訳ない心地になった。  この二人は本当に、聖欲闘技を愛しているのだ。  自分はその場に、聖欲ではなく、ただ誰より強くありたいという形の欲だけで飛び込み、そして無様に敗れ去った。  自分のような「紛い物」の聖闘技者が、この純粋な少女と拳を交わしたその行為は、彼女たちへの侮辱に当たるのではないのか―― 「こら。リーフルさん、めっ」 「ぇう」  むにっ、と両手でほっぺたを挟まれてリーフルの端正な顔立ちが愉快に歪む。 「また難しいこと考えてる顔ですよ。  聖欲闘技はもっと、こう……頭の中、パーッ! ってして、見るんです」 「ほわー?」 「パーッ!」 「ほわーっ」 「パーァーッ!!  ……あ、そうか。はい」 「ぱ、……ぱぁー」 「よくできました♡  さ、一緒に見ましょう、ほらもっとこっち寄って。私の腰をぎゅっ♡ って抱いて!」 「あ、あぁ」  自分にはないこの天性の明るさを持った少女と一緒にいれば、なにかが変わるのかも知れないと、リーフルは思い始めていた。   ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★  西方大陸のアンデッドロックシーンに数百年に渡って君臨するリッチー・ドナテラの『DAY by DAY bye-DIE』のインストverが礼拝堂に鳴り始めてようやく、サフラン=フォン=レスディンはその重い腰を上げた。  腰の下まで長く伸ばした髪は曼珠沙華のような鮮やかな真紅。陶然とした顔つきは、美しはあれど覇気はなく。その眼差しが前を向くのはただ顔が前に向いて付いているからと言わんばかりだ。 「では、サフラン様。お気を付けて」 「……うん。気を付ける」 「これから殴り合いする人に気を付けてって言うの、めっちゃ面白くないですか?」 「……ごめん、ちょっとわかんない」  今日も常と変わらずクラシカルなメイド服を着こなすアレクサンドラを傍らに置いて、サフランはさながら休日の朝に自室から台所へと向かうかのような気取らない足取りで入場口をくぐった。  その姿が6万4000の視線の先に晒されようとも、その落ち着きように何の変わりもない。 『さァァァアアアアッ、門をくぐって現れたるはその名もサフラン=フォン=レスディンッ!!!! 西方大陸では名のしれた『貴族』なる高貴な人々、彼女らは自らをブルー・ブラッドと称すと言いますッ!!!!  彼女も正にその優雅なる青い血脈を継ぐ女ッ!!!! その肢体を一瞥しただけでも分かる問答無用のハイパフォーマンスに礼拝堂中の視線が釘付けだァァァァアアアアッッッ!!!!』 『いやぁ、大きいですわね。大きいのはね、えぇ。それだけでパワーですから』 『手元の資料によりますと、上から109ッ! 52ッ! 98ィッ!! しかしそれも飽くまで申告数値ッ!!!! 目視ではそれ以上のパフォーマンスを誇っているようにも見えますッッッ!!!!』  そんなことまで分かるんだ、とサフランは少し感心した。 「誇り高きハイルーン家の嫡女として、あまり大きすぎる数値を見せつける様な真似は品がない」……という母の言いつけに背く理由も無かったので、言われたとおりに少し「平坦」になるように少し逆サバを読んだ数値を申告したのだ。  そんなわけで実際には109より幾らか大きな胸を、その先端をギリギリ隠す程度の黒のふわふわポンチョで覆ってやる。衣装は、それだけだ。鼠径部には、聖水感知用に張られた白い聖布の前張りが一枚、ぺたりと貼られている。衣装なんて、それだけで充分というものだ。  片足を大きく上げてエプロンサイドに乗せ、そのまま一番下のロープをよいしょと潜る。そのまま青のポストで相手の入場を待つ。うん、打ち合わせ通りに出来ている。はず。  音楽が切り替わり、また会場が一転、暗くなる。  流れてきた曲をサフランは知らなかった。礼拝堂中にいる6万4000の人々も誰も。遠隔幻影投影術具(テレヴィジョン)を見ている者中には……ほんの数人だけ。 「みんな、お待たせーッ★ ピィのオンステージ、はっじまるわよーッ!★」  大きな大きな声に合わせて流れてきたその歌の名は『ET☆ILE PARFA!T(エトワール・パルフェ)』。作詞・作曲ピィ・エミナ(編曲:トトマ・リカ)。本日初披露の新曲である。  ポップでキュートでとってもラブリー。甘い甘い星屑のパフェに乗せた夢と、輝く星のように完璧を目指す努力とを、一つに纏めて銀のスプーンで食べてしまう。そんな強くて可愛い女の子のための応援歌だ。 『かの影狼(かげろう)の弟子として一足お先に耳目に触れましたピィ・エミナッ!! 本日は改めて皆様の前に歌とダンスを伴っての登場ですッッッ! これは我々も少々声を抑えざるを得ませんねッ!?』 『抑えれてない、抑えれてない』 『跳ねるは黄金のツインテールッ! ピンクのパレオが弾む度、鼠径部を覆うレオタードの白地が輝いて見えますッ! なおッ、ただいまマイクの音量をなんとォオッ! 三割減ッ! しておりますッ!!』 『素が大きい、素が大きいから』  スポットライトを堂々浴びて、参列者たちに大きく手を振りながら、彼女はマイクも無しに生声で会場中にその歌声を生音で歌い届けていた。  聖欲闘技における己の欲を増幅させる力が彼女の歌声、そして肺活量に強力なブーストを齎していることは明らかだ。 「……きれいな声」  ピィ・エミナには一度だけ会ったことがあった。食事会に誘われた時、アリー――サフランだけはアレクサンドラのことを特別にそう呼んでいる――に引き合わされて、二言三言、言葉を交わした。  その時は、この声の美しさにまるで気付かなかった。彼女の声の素晴らしさは音楽の調べに乗せた時に特に際立って煌めく、最上級の楽器であるようだ。  いつまでだって聞いていられる。いや、むしろ聞かせて欲しい。ずっと私の隣で歌い続けてくれていたら、いいのに。  ぼぅ、としている内にいつの間にかピィは祭壇の上に上がっていた。いや、曲ももう止んでいる。  思わず聞き惚れてしまっていたのだ。慌ててサフランは拍手をした。 「……ブラボー」 「え? ……あぁ、うん、ありがと★」  タイミングを外してしまったらしく、ピィからはなにやらハーピーがストーンショットを食ったようなキョトン顔で返事を貰ってしまった。  いけないいけない、これはもう、本番なのだ。退屈な練習ではない。やれることをやれるだけ、やりきっていいし、やりきらねばならない。  ――よし。気を付けよう。  思うと同時に、大きな魔導音(ブザー)が歌声の余韻を切り裂いた。

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