聖欲闘技 ~セイント&バイオレンス~

メイドさんとごはんを食べよう

 今回の聖欲闘技 ~セイント&バイオレンス~ は若き二人の聖闘技者、スミレーとリーフルの謝罪シーンから始まる。   「この度は」 「わたくしどもの暴走でもって」 「皆様に大変なご迷惑をかけ」 「まことに」 『申し訳ありませんでした』  てけてけてけてん。  なお、『』(二重鉤括弧)はハモリの意味である。 「いや謝る気ゼロじゃん★  完全に面白くしようとしてるじゃん★」 「そんなつもりは」 「御座いません」 「誠心誠意」 「心から」 『反省しております』  てんてけてけてん。ててん。 「それいつ練習した?★  トイレから戻ってきてもまだ注文済んでなかったのそういうこと?★」  ピィ・エミナが今夜の食事会に選んだお店は極東風居酒屋「呑み屋キョウチクトウ」。  全席個室かつ座敷という如何にもな極東ムードの中、本格極東料理をリーズナブルなお値段で楽しめる人気店である。  最近のピィは少し極東風の味付けに凝っていて、今日の先生(アマリエ)のために作り置きしてきたポトフにも極東風のを試してきた所だ。  お店選びにも少なからずその辺りの私情が漏れ出た形だったが、飽くまで選択基準の一番の理由は個室があったからである。  別に秘密会議をしようというわけではない。だが、お互いを広く深く知り合いたいと思うなら、向かい合って近しい距離で――なんなればお肌の触れ合いも辞さないというのがピィの主張する所であったから、周りの目を気にせず騒ぎやすい個室の確保はマストだったのである。  今のところ、そうしたお店をチョイスした利点は、スミレーとリーフルの土下座芸がとてもやり易い、という形でのみ発揮されているわけだが。 「コントの謝罪をコントでするやつがあるか★  てか、今日のリーフルちゃん今のところ2/2でアホ枠の仕事しかしてないけど大丈夫?★ イメージ戦略それであってる?★」 「――いや、本当にすまなかった」  厳しい追及を前に、すっ、とリーフルは居住まいを正し、改めて生真面目な空気をまとってピィたちへと向き直った。  パツンと切り揃えられた髪型に、きりりと鋭い目つきの細面(ほそおもて)は、厳格な(おもむき)を一呼吸の間に作り出してしまう。先程まで初対面の相手とマッスルを肴にイチャついていた女だとはとても思えない。 「つい興が乗ってしまったと言うか、エスカレートしていく我が身を止められなかったと言うか……」 「あ、私もです。何ていうか、止め時がわからなくなっちゃって」 「そう、そうなんだ。  こんな素晴らしい体の持ち主に、あんまり情熱的に褒めそやされたものだから。いやいや、私ならもっとキミの良いところを見つけられるぞ! と躍起になってしまって!」 「わかります、わかります。私なんて、最後の方はわざわざ靴脱いでもらっちゃって」 「しかし土踏まずの形を褒められたのは初めてだったな」 「私も、土踏まずの形を褒めたのは初めてでした」 「3/3いただきました★  ……ま、2秒で仲良くなった二人はそれで良しとして★」  めでたしめでたしと話を切り上げ、ピィ・エミナは筋肉姉妹(スミレーとリーフル)から視線を移した。  自身の隣のお座布団の上。デビルフィッシュのわさび和え(お通し)に舌鼓を打っていたメイド服の少女が、もぐもぐごくん、と喉を鳴らしてから元気良く応える。 「あたしはありますよ、土踏まずの形を褒めたこと!」  聞いてねぇ★  話は少し遡り、スミレーとリーフルが路上で密着肉々コミュニケーションを楽しんでいた背景でのことである。  取り残されたピィ・エミナは、自分と同じく取り残されたメイド服の少女へと視線を向けた。  まず読者諸兄に断っておくと、このメイド服の少女は四人目の新人(ルーキー)、サフラン=フォン=レスディンではない。  しかし、ピィは彼女に見覚えがあった。サフランの住まいを調べ、今夜の食事会への誘い文句を掛けに訪ねた際に応対した、彼女付きのメイドだった。  その時は名前まで聞かなかったが、主人とは対称的に終始明るく朗らかな笑顔を見せていたことが印象に残っている。 「えー、こほん。改めましてピィ・エミナ様。  あたし――んんっ、わたくし、ハイルーン伯爵家が御息女たるサフラン=フォン=レスディン様にお仕えするスチュワード兼バトラー兼ハウスキーパー兼トレーナー、アレクサンドラと申します。  アレックスちゃんでもサンドラちゃんでもご自由にお呼び下さい」 「じゃあアレちゃん★」 「はーいっ!」 「いいんだ★」  にっこり、というか、ぺかーっ、と笑い、スカートの裾をつまんでご挨拶。メイドドレスでやる仕草では無いと思ったが、これが案外堂に入ってる。  必要とあらば、普通のドレスを着ることもあるのかもしれない。 「サフラン様は本日、急なお(いえ)の仕事が入ってしまいまして。  後日改めてこの失礼(ドタキャン)を本人よりお詫び申し上げますが、本日の所はあた、わたくしがメッセンジャー兼名代として遣わされました」 「家の仕事?★」  ――家、というのは、西方大陸の上流階級の間で脈々と続けられている特異な文化である。  普通、人はそれぞれの街やら村やらが崇める神の力によって、その地に住む人の中からランダムに抽出された命の因子を混ぜ込み取り入れた「赤子」として生まれる。そうして生まれた赤子たちは、その地に住む人々皆で育てるのが一般的だ。  だが、西方大陸の一部では「貴族」と呼ばれる政治や大規模な商業に関わる有力者たちがいる。彼女らは自身の因子を強く持つ赤子を直接神から賜り、「母娘(親子)」という関係を築いて幼い内から専門の教育を施すのだ。そして、代々同じ仕事を引き継いでいく――そうすることで高度な専門性を長く保持し続けることが可能である、という理屈だ。  実際、西方大陸の文化レベルの高さは誰もが認める所である。一方で、在野の優秀な人材を登用し辛いだとか、生まれてきた個人の自由がないとか、自分とよく似た人間を作るなんて気持ち悪いとか。その手の批判も枚挙にいとまがない。  聞けば、サフランの母であるハイルーン伯爵は、サンタアメノニアに領地特産のお肉お野菜五穀諸々を収めており、その娘であるサフランは、本家とこの浮島との間で窓口の役目をこなしているとのことだった。  つまり、彼女は聖闘技者と商人の二足のわらじを履いているというのだ。 「それじゃあ……仕事とピィたちどっちが大事?★ なんてベッタベタなことも聞けないし★  仕方ないわね、許してあげる★」 「次の機会があれば、懲りずに誘って欲しい、と言ってました!」 「りょーかい★」  と、そういうサフラン側の事情を確認して、ピィは新人全員が揃わなかったことも已む無しと受け入れたのであった。 「で、なんで普通について来てるの?★」  尋ねたいのは土踏まずの称賛体験の有無ではなく、そういう事だった。  日も暮れて予約の時間にギリギリのギリといった所で、互いの称え合いに些か疲れが見えてきていた二人を呼び止め、お店に入って着席注文乾杯食事。  メイド服の少女改めアレちゃんは、実に自然に、さも当然に、その流れに同乗して居るのであった。 「なにせ名代ですから!」 「お腹痛い人の代わりにトイレ行くみたいな話するね★」 「あ、ご飯食べてる時にトイレの話やめてもらっていいですか?」 「それね★ ピィも言ってからごめんって思った★」  練習中の箸さばきで、どうにかこうにか、若竜の照り焼きを摘み上げて口に運ぶ。甘辛いソース――もとい、タレの味わいでライスが進む。  口の中のお肉をしっかり噛んで喉を通して、それで会話をリセットした気になって、改めて真面目な顔で向き直った。 「……さっき、アレちゃんさ。色々言ってた役職の中にトレーナーってあったよね★  それって……サフランちゃんの聖欲闘技のって意味でいいのかな?★」 「ズバリ、ご明察ですね!  ――サフラン様のお話、聞きたいんですか?」 「教えてくれるなら聞きたいな★」  スミレーとリーフルはいつの間にやら、筋肉談義から発展した筋トレ談義を満喫している。ただの筋肉の褒め合いよりは少し興味が沸かないでもなかったがさておいて、ピィは話し相手をメイドの彼女に定めた。 「でも、言うはずないでしょ?★」 「別に少しくらいなら」  そう言うと、キリリッ、とした顔を作ってアレちゃんはピィへと背筋を正して向き直る。 「実はサフラン様ってば口から火を吹いて相手を焼き殺すのが得意で」 「竜じゃん★」 「サフラン様が振り回した尻尾に当たるだけでも人間程度は昏倒せしめる威力でして」 「竜じゃん★」 「その背中の翼は実は空を飛ぶためではなく体温の調節のためにあるという」 「竜の雑学じゃん★」 「若い内の肉は食用にもなる。美味」 「コレ、食べたいの?★」 「はい」 「あーん★」  ぱくんもぐもぐごっくん、けぽっ。  とても美味しそうに食べてくれるので餌付けのしがいのある少女だった。  情報収集はさておき、親睦会としての食事会は成功と言えるだろうか。本人じゃないけど。じゃあダメじゃん★ 「とっても美味しいですね、このサフラン様の照り焼き」 「竜だよ★」 「ピィ・エミナ様もお一つ――」 「あ、それそれ。言おうと思ってたんだけど」  デビルフィッシュにわさびをてんこ盛りにした代物がつい、と摘まれるのを阻止したかったわけではなく(阻止したくなかったわけでもない)、訂正すべき事柄をひとつ、伝え忘れていたことを思い出す。 「ピィのことはピィって呼んで★」 「では、ピィ様?」 「様はなし★ 呼び捨てか、ちゃん付け★」 「いえ、あたしの立場でそういうわけには」  飽くまで固辞するアレちゃんに、少しの根っこの真面目さを感じ取りながら、ピィはとびっきりにチャーミングな笑顔をぶつけてあげる。  満面の輝きというのでは無い。そこには幾らかの悪戯っぽさがあって、心の内の少しの照れが覗けて、いかにも作って見せたあざとさと、僅かばかりに滲み出す本音とが、ほころんだ口元に、優しく緩んだ眼差しに、瞬きのようにその輝きを映し出す。  スミレーが太陽のような娘だというなら、ピィ・エミナは(スタア)の少女だった。 「ピィはサフランちゃんのメイドさんとじゃなくて――アレちゃんっていう可愛い女の子とお友達になりたいの★」 「わお」  元気系メイド少女の頬が一気にぽぽぽっと朱に染まる。  何故かこのタイミングでこちらを見ていたスミレーとリーフルの二人が揃って『おぉー』と声を上げた。練習なしでも揃うのかよ★  少しだけ目を泳がせたアレちゃんは、んー、と小さな声で呻いて、ふぅ、とため息をついて、よし、と少し自信なさげな視線を向けながらピィに言った。 「……ピィちゃんの人たらし度が2上がった?」 「まぁまぁ刻むタイプのヤツだ★」  その時、ピィがポーチに入れていた多機能式遠隔通話術具(スマートテレフォン)がぶるり、と震えた。

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