Chapter:86 「犯罪者に弁解はいらねエッ!」

「なんだっ」  さすがというかなんというか、悲鳴に反応したのは博希が一番早かった。ごく近所で悲鳴がしたということもあるから、場所は簡単に解る。景や五月が何か言う前に、博希の体は自然に動いていた。 「ヒロくんっ」  二人もあわてて追う。悲鳴、というのがただ事ではないし、この際相手がどんな者であろうが関係ない。それに状況によっては、博希を力づくでも止めなくてはならなくなるかもしれない。  ……まさに、二人が懸念したとおり、博希がその場にザッ――と足を踏み入れたとき、視界をとらえた【もの】で、彼の理性は確実に吹っ飛んだ。 「博希サンっ! 落ち着いてくださいっ」 「だめー、ヒロくんっ」  無言で現場に飛び込もうとする博希を、景と五月はふたりがかりで止めた。同時に、その場を把握するために、見る。  そこにいたのは、ひとりの少女と、棒切れなどを持って彼女を取り囲む数人の男女だった。それが家の玄関前で繰り広げられているあたり、この家は少女のもので、……してみると「入ってこないで」というのは、彼らが彼女の家にまで侵入しようとしていたということか。博希はこれを一瞬で見て、それから理解して、それから逆上したのだ。  どうひいき目に見ようと努力しても、どちらが劣勢で、どちらがどういう目にあわされようとしているか、解らないほうがどうかしている。そりゃヒロくんも怒るよ、ぼくだって怒ると思うよ、五月はのちにそう語った。 「なにやってんだテメーらっ!」 「……あぁ?」  がっしり押さえられながら、博希が叫ぶと、相手から返ってきた反応はしごく冷静なものだった。景も逆上したい思いを抑えながら、冷静を装って言ってみる。 「ひとりの、しかも女の子を、集団で囲むとは感心しませんね」 「お前たちには関係ないだろう」 「関係ねーとか言うなっ! お前らそこに一列ンなって並べッ、今から俺が片っ端から地面に埋めてやるっ!!」  その脅しの内容はともかくとしても、博希の怒りは本物だった。多対一、という状況に、自分が置かれているならともかく、人が、しかも女子供あるいは老人等々、弱者が置かれているとなれば、正義感の塊のような彼が許すはずもない。まして中心にいるあの少女はおびえているようにも見える。さっき聞こえた悲鳴は極力強がってみたものだろう。 「こいつがどんな娘かも知らない奴に、色々言われるいわれはないな。なんだ、お前ら」 「名もなき旅人だ!」  これはさすがに恥ずかしい名乗りであった。が、ストレートに名乗らなかっただけ、まだ理性の一ミリ程度は残っていたのかもしれない。もしここで勇士だ、などと言っていたら、間違いなく大パニックになっていただろう。しかし、今この状況を冷静に見つめようとする景には、さっきの一言が気にかかった。それでも、それはこの状態から抜け出しさえすれば、おのずと解るはず。今、やらなくてはならないのは、これをまず解くこと。それも、ここから先ひとりのけが人も出さず。 「……あなた方のためを思って申し上げます。今は、引き下がったほうがよろしいかと」  静かに、落ち着いた口調で、景が言った。 「後悔なさいますよ。僕がこの手を離せば、周囲十メートル四方はまず髪の毛一本残さず更地になるでしょうね。当然――――あなた方も、消えますよ」  後悔する、というところを除いて、もちろんこれはハッタリである。いくら博希の力が優れているといっても、さすがにそこまでおよべば景たちだって無事ではすまない。しかしそこまで言わないと、多分、彼らは退くまい。 「でたらめを!」 「嘘と思うならそのままそうしているのですね。僕らはこの手を離す前に、その子を連れてダッシュで逃げますから」  いかにもしたたかにそう言ってのけた景の笑顔が、冷静かつ残酷に彼らにうつって見えた。が、それで退きもしないあたり、彼らもまた、ある意味で必死だったのかもしれない。棒切れを握る手に力をこめて、叫ぶ。 「家に入れるなっ。今日という今日はこいつを捕まえて――――」  その言葉に博希がもう一度逆上する前に、この状況を非常にめんどくさいとみた景が、動いた。 「あのですね。どうか今日のところは僕らの顔を立てて、お引取りいただけませんかね」 「できるかっ、そんなこと!」 「――そうですか。ではもういい加減、このひとを放しますよ。僕らにかかわって、しかも言うことを聞かなかったこと、後悔するんですね」  今にも飛びかかろうとするような血走った目の博希を、囲む者たちは一斉に見た。生唾を飲む音が聞こえそうなほど、緊張している空気が伝わってくる。  頼むから、早く行ってしまってください。もう博希サンをおさえていられない。等しく、それは景の心情であった。 「くそっ。……覚えていろ、魔女の娘め!」  景の口八丁が勝った。少女を取り巻く者たちは三々五々、捨て台詞を残して去ってゆく。……魔女の娘……? 「……ありがと」  少女がうつむいてつぶやく。そうして博希たちははじめて、少女をよく見た。自分たちの世界でいうところ、だいたい小学生――くらいだろうか。つんとした眉毛にまるい瞳、小さな鼻とぷっくらとした唇は、彼女が【可愛らしい】ことを如実に現す。 「いやいや、ケガはないか? ひでえことするヤツがいるもんだなあ」  先程までの殺気はどこへやら、博希はかんらと笑って少女を立たせる。膝が少し、すりむけていた。 「あ、ケガ、しちゃってる」 「治療したほうがいいですね。僕の雑嚢に救急セットが入っています」 「でもここじゃアレだなあ……きみ、家、ここだね? お父さんお母さんは?」  ふる、と少女は首を振った。その様子に一瞬、三人は気を使うが、先に話し出したのは少女だった。 「家に来て。お礼。なにか、飲んでいって」 「…………」  現実がどうあれ見た目小学生の女の子の――しかも察するに保護者のいない――家に、健全な男子高校生が三人も訪ねて行ってもいいものだろうか。倫理的心配はこの三人に関しては皆無であろうが、常識的には普通遠慮してしかるべきである。しかし少女は家へ入っていってしまった。  それを見ながら、三人はほんの少しここから先のことを懸念する。 「……行っちゃって、大丈夫かな?」 「あの子が来いっつってんなら、それを聞かない理由はねえと思うけどよ」 「…………? こんな会話、つい最近もしたような気がするのですが」  ……ということは、あまり考えなくてもいいということか。――そういう結論に達してしまうのはひどく危ない気もしたが、さっきの奴らが戻ってこないとも限らず、また少女のケガも――ついさっき、立って歩いてはいたけれど――心配ではある。 「結論。様子見だけでも」 「だね」 「だな」  それで決まった。三人は少女の家の扉をとんとんと叩いて、中へ入れてもらった。真ん中には質素なテーブルといすが置かれてあり、申し訳のなさそうに、大きな時計――らしき、もの――が、端に寄せられて据えてある。それだけの、ひどくシンプルな家であった。 「様子見たら、俺ら、すぐ出てくからさ。宿、探さなきゃなんねーし」  少女はカップに飲み物を注ぎながら、三人を見た。すぐ出ていく、と言った博希のその言葉に、少なからず、ショックを受けたような雰囲気で。 「…………旅の、ひと…………?」 「そうなんです。今さっき、こちらに到着したんですよ。そうしたらあなたに出会ったというわけです」  かたん、と、テーブルの上にカップが置かれる。「どうも」と頭を下げると、少女はほんの少しだけ笑った。 「あ、笑った。おひざは大丈夫? 消毒だけでもしますよって、カーくんが」 「うん……」  五月の言葉にうなずいて、少女はいすに座ったまま、景に膝をあずけた。景は雑嚢から救急セットを出すと、ぺたぺたと治療を始めた。 「あのね」 「何です?」 「……泊まっていけばいいと思うの。ここに」  瞬時にその場に沈黙が訪れる。この一連の会話は五月と景のものではない。正しく、少女と景のものである。今彼女はなんと言った。 「ご冗談を。女の子ひとりのお家に、僕らがお邪魔するわけにはいきませんよ」 「ひとりじゃないよ、お父さんがいるもん」  先程俺に親の存在を聞かれて首を振ったのは、ただ単純にいなかったから、なのか――博希は少し、ホッとして、いやいやだめだめ違う違うと首を横にブンブン振る。 「なおイカンだろ。こんな状態で父ちゃん帰ってきたら、俺でも何かを誤解するぞ」 「ぼくらがいなきゃいけない理由でもあるの? お父さん帰ってくるなら、ぼくらいなくってもいいじゃない」 「うん、でも……今日、帰ってくるかどうか、解んない」  ええ? と、三人は顔を見合わせる。 「何してるのお父さん」 「運転手」 「運転手?」 「マートルンの」  あれ? と、三人はもう一度顔を見合わせた。マートルンの運転手?  ここはピンクフーラで……仕事をするなら、こちら方面であろうわけで……それじゃあ……?  彼らがひとつの結論にたどりつこうとしたそのとき、ひどくタイミングよく、しかし三人にとっては非常に間の悪いことに、家の扉がばたんと開いた。 「今帰ったぞ、レリーア! 今日は久しぶりでマートルンに客が乗ってな、…………」  彼らはひとの家庭の資産状況にまで首を突っ込むつもりはなかったが、この家自体、前述したとおり、どちらかというと貧困な層であったようだった。それが証拠に、家のつくりが博希曰くのところ『玄関開けたら二秒で茶の間』であったため、もうひとつ間の悪い現実が三人を襲うことになる。 「……お前ら何だ――――――ッ!!!!」  三人は隠れる余裕も、居住まいを正す余裕も、まして「どうもコンバンハ」と挨拶する余裕さえ与えられず、絶叫の風圧で髪もなびきそうなほどの勢いに押された。そのせいかどうかは解らないが、五月が「きゃう」と言ってひっくり返る。 「や……やっぱりあのおっちゃんだ……!」  ひっくり返った五月を景とふたりがかりで抱き起こしながら、博希はひくひくとした半笑いでそうつぶやいた。間違いなく、つい先程までマートルンの運転席に座っていたあの男性が目の前に仁王立ちになっている。この激昂から見るに、きっと彼は確実に何かを誤解していた。 「この野郎ども、俺のマートルンに乗せてくれって言うから乗せたら目的はこれか!」 「違いま――――」 「貴様ら俺の娘に何をする気だ、三人雁首そろえて寄ってたかって何をするところだったんだっ!」 「いやケガの治療とお茶をさあ、」 「ええい言ってみろこの寄生虫どもがああああ」  お前らから始まって、野郎から貴様からあげく寄生虫。ひとつながりの発言の中で相手への表現がこれほどまでにコロコロと変わるというのもそうないでしょうねと景はひそやかに思う。筆舌に尽くしがたく、思いつく限りの罵倒を、息もつくことなく、まして相手の弁解すら遮って自分たちに浴びせるその様子に、いつもは横槍のうまい博希でさえも口を半分あけて呆然としていた。  ダメだこりゃ止めるタイミングが見つからねえよ。彼の目はそう語っている。  とはいえこのまま怒鳴らせていたら、そのうち脳天でもカチ割られるかもしれない。 「あのですねえ、」  ようやく景がきっかけをつかみかけるが、 「犯罪者に弁解はいらねエッ!」 「…………」  一刀両断である。とうとう寄生虫から犯罪者だ。階級的にどちらが上かは解らないけれど。  男性の勢いはもはやとどまるところを知らない。なんにしろこの三人に一発はくれてやらなければ気がすまないとでも思っているのだろう。 「うわーん、やめてえ」  丸太のような腕が、ぶうんと振られて五月の頭をかすめる。 「お父さん、ちょっと、お父さん」  少女が止めようとするも、耳には入らない様子。下手をすると彼女まで巻き込まれかねない。  博希は本能的に少女と、それから五月をかばって――振られる腕をよけ、派手にすっ転んだ。 「だあああっ」  とっさ、椅子を抱え込むように転がったのは、受け身をとったつもりだったのだろう。が、彼にとって、ひとつだけ、計算違いのことがあった。  ――はずみ、だった。転がった勢いに任せ、どこかに引っかけでもしたのか。手の甲の布がバラリとめくれ、エンブレムがあらわになる。 「うっはあ」  博希は一瞬だけドキッとしたが、見えてしまったものは仕方ない。それよりもなによりも、それどころでない者が目の前にいることを、直後、彼は知ることになった。 「そ……それは……! まさか【伝説の勇士】様……!?」 「あ、やっぱりおっちゃんも知ってるのか。うん俺勇士なんだ」 「あ……あああ……!」  ついさっきまで、緊張と騒動のただなかにいたというのに、ひるがえっておののく男性と、のほほんとした博希の対比が、景と五月はなんというかおかしくてたまらなかった。そばにいた少女も、博希が【伝説】だということを知ると、景と五月の服のすそをきゅと引っ張って「みなさんも?」と聞いた。五月はちょっと笑って、「そうだよ」と、エンブレムを見せてやる。この際、そうした方がかえって安心させていいだろう。景も五月と同じようにした。  男性の勢いが落ちたことで、少女が話す余裕も、生まれたらしかった。彼女は男性の前にぎゅっと進み出ると、はっきりと、言った。 「お父さん。そのひとたちは、わたしを助けてくれたの。何もしてないの」 「……え?」 「だから、違うの。そのひとたちは、助けて、くれたの」  ていねいに区切って、少女が言う。景は――下手をすると、それすら、短時間に懐柔しやがって云々という発想につなぎかねないのですが――と、多少の危惧をしたが、どうやら、そこまでには至らなかったようであった。 「……助けた……?」  ようやく話せるか? とわずかな安堵をもって、博希がへたりこむ。すっ転んだ傷の痛みよりも、さすがに、疲れが先にきたらしかった。 「こちらのお家の前でですね。相当な数の人に囲まれていましたもので」 「人に……また、あいつらか……」  男性は先程までの勢いはどこへやら、ため息をついた。――また、ということは、これまでにも何度も同じようなことがあった、ということか。無論さっきの表でのやりとりを見るに、そうであったのであろうことは、少なくとも景の中では想像にかたくなかったが、想像は完全に現実に姿を変えた。 「フツーじゃねえぞ。あんなちっちぇー子、誘拐しようとしたんだぞ、あんな大勢で」  結構な怒りをこめて、博希が言った。そばにその【誘拐されそうになった】当人がいたので、景は彼女に気をつかって、場所を変えようと思った。内容によっては――もしかしたら、聞かせるべきでない単語などもモロモロ出てくるかもしれなかった。  が、その前に、五月が口を開く。 「行こっか? ぼくももう眠たいや、いっしょに寝よう?」  それが少女の小さなあくびを見てのことでないことは、少女を率いて別室に行く五月が博希と景にウインクしたことで解った。あとでぼくにも解りやすく説明してね、というわけだ。五月としてはとても賢明な判断といえた。  どうせ話の途中ですやすやと眠りだすに決まっているのだ。それならばいっそ先に寝ていたほうが多少はマシだろう。 「……すまない……いや、すみません」  男性が本当に申し訳なさそうに頭を下げる。唐突に話し方がていねいになったので、ふたりは面食らった。 「そのように慇懃にならずとも――どう、なさったのです」 「勇士様とは知らず大変な口を! ……」  ああそのことかよ、と博希は苦笑する。 「別にそれで腹立てるほど俺ら心せまくねえよ。おっちゃんから見たら俺らガキだしさあ、いいよ別に今までどおりで」  さっきから妙にしおらしい感じになっていたのもおそらくそれが原因なのだろう。改めて【勇士】という名の影響力を思い知らされる。 「……それで? あの子をさらおうとした面々に、心当たりがおありなのですね?」  まず景が切り出した。そのあたりから切り込んでいかないと、いつまでたっても本題にはたどり着けまい。おそらくまた執政官が関わっているはずだし、きっとその背後にはマリセルヴィネがいるはずだ。  ――が、たどり着いた真実は、ふたりが予想していたよりももう少しヘヴィーなものだった。 「村の人間だ。俺が留守のときを狙って、いつも、レリーアに手を出そうとする」  レリーアというのはあの少女の名であることを、あわせて男性から聞く。  さらわれそうになるたび、襲われそうになるたび、間一髪で彼が間に合って、ことなきを得ているのだそうだ。以来見知らぬ人間に対して、彼はひどく警戒心を抱いていた。それが博希たちも例外でなかったのは、先程の大騒動を思い返しても、十分すぎるほど納得がいった。しかし、やはり納得のいかない点というのはあるもので―― 「……妙、ですねえ。あなたを脅すためとしても、数回で失敗に終わる時点で別の手がありそうなものでしょう?」  また、村の人間が総出でこの親子に危害を加えようというのも何か腑に落ちない。景は首をかしげた。 「脅す相手は……俺じゃない。無論俺も数には入っているんだろうが」  ますます解んねえなと博希が首をひねる。 「奴らが本当に脅したいのは、レリーアの母親なんだ」 「……ということはあなたの奥様ですか? そういえばお会いしていませんが……てっきりお亡くなりになったものと……」  それはこの世界を旅するようになってから生まれた、当然の考えだった。以前訪れた村で結婚式に参列したときに、この世界の人間には【離婚】の概念がないことを、博希が直接聞いている。そのことを景も知っていたから、レリーアから「お父さんが」いるというのを聞いたときに、では「お母さん」はいないのだろう、しかし、別れた、というのはまずありえないと思っていたのだ。 「死んじゃいねエよ……いや死んでてくれたほうが……少しは、ありがたかったかもなア……」  その発言に少なからずふたりはどきりとする。 「そんなこと言うもんじゃありませんよ! ……子供は……どんな親でも、いつだってその背中を追うんです。死んでたほうが――なんて!」 「まさかおっちゃん、レリーアちゃんの前でんなこと言ったわけじゃねえだろな」  いやそれはない、それはな、と男性はかぶりを振って、しかし、と、重い顔をした。 「子供というのは親のどんな感情でも拾う……それはあんたがただって、解るだろう……?」  博希と景は黙った。自分たちも無論――まだ、子供だから、よく解る。痛いほどに。 「ならレリーアちゃんは……どう思ってんだ、母ちゃんの、こと」 「どう……思ってるんだろうな」  まるでひとごとのように、男性はつぶやいた。その声にはある意味で諦めも含まれているような気さえして――景は眉にしわを寄せる。  まったく奇妙な夫婦関係、だ。話し方から、完全に離婚したわけでもなさそうだし、だとすれば別居か。別れたくとも別れられない? それは彼がコスポルーダ人だからか? それ以外にも、何かの理由がありそうで……たっぷりの時間を使って、景はようやく、口を開いた。 「……では奥様は、今、いずこにいらっしゃるのです……?」 「………………」  さっきよりも多めの沈黙が続いて……。  男性は、静かに、部屋のカーテンを開けた。  瞳の中に、きらびやかな光が滑り込む。  博希も景も、一瞬、顔をしかめて、ふせた。  夜だというのに、この眩しさはなんだろう。 「なんだ、あれ……」 「執政官様のお屋敷、でしょうかね」  夜にもなってあれだけ明々と灯をともす一般家庭を、今までに彼らは知らない。 「そう執政官の屋敷だ――――レリーアの母親は、あそこにいる」 「屋敷に?」 「ああ」  男性は言葉少なにうなずく。 「この村の執政官は、レリーアの母親で――つまり俺の妻、なんだ」 「!」

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