ひとみで みかづき つかまえて

3. トラウマは卒業アルバムに書かれたメッセージ

 大事な日の前日に呑んだくれるような、だらしない子だなんて思われたくない!  特に昔好きだった人には!  私は彼と距離を取るように、店の奥の方へと慌てて入る。  一方の三日月くんは「ねえ、瞳さんこのにおい……」と続けた。  既にこちらは呼吸を止めて数秒だ。 「揚げ物かなぁ?」  そっちか!  三日月くんはカウンターの方を眺めながら「いいにおいだな」だなんて呟いている。 「なんかお腹すいてきちゃったな。ねえ、瞳さんもう朝ごはんとか食べた?」 「えっと、ごめん! 私……ちょっと急がなきゃいけなくて……!」 「あー、ごめんね引き止めて」  申し訳なさそうな顔をする三日月くんに、私は「ううんー」と笑顔で後ずさりする。 「瞳さん、確か今日新成人代表の挨拶を務めるんだよね。頑張って」 「うん、そう、そうなの! ありがとう! じゃあ、また後で!」  これ以上の接触は危険だ。  片手を挙げて手を振るのと同時に、ガムの置かれた棚に向かってまっしぐら。  大丈夫。  あの様子ならきっとバレてはいないはず。  ガムと一緒にスポーツドリンクを購入すると、すぐさま母の待つ駐車場へと小走りで駆けて行く。  まさに二日酔いの頭がスッキリするほどの、ハラハラドキドキハプニングだった。 「ねぇ、さっき誰かと話してなかった? 背の高い子」  予想はしていたが、車に乗り込むなり母からの質問が飛んでくる。  やはり見ていたか、容赦ない。  私は恥ずかしさを誤魔化すようにスポーツドリンクを一口飲むと、「三日月くんだよ」と小声で答えた。 「えっ!? あれ三日月くん!? 結構小柄な子だったよね? あらー、あんなに背も高くなって……!」 「ね、私もビックリしたよ。雰囲気もガラッと変わっていたし」  うんうんと相打ちしながら車のエンジンをかける母。  車が動き出すと同時に、暖かい風が足元から吹き上げてくる。  私はガムの箱を素早く開けると、一枚取り出し口の中へと放り込んだ。 「三日月くんか……たくましくなったわね。そういや、瞳。あんた、三日月くんのこと中学の時に好きだったよね?」 「……っ!?」  どことなくうれしそうな母の顔をジト目で見る。  イキナリその話とは、やはり容赦ないなと思った。  母とはまるで友だち同士のような関係で、恋愛事情や異性についても割と気軽に話をしている。  だから三日月くんとのあれこれも、母はだいたい把握してはいるのだけれど――。 「……ん、まあ……。好きではあったけど」 「振られちゃったのよね」 「ちがっ! 振られたというか、嫌われてたのがわかって……だから告白もできなかったの!」 「そうだったわね、ごめんごめん」  車は既にコンビニの駐車場を出て、成人式の会場である町の中央公民館に向かって走り始めていた。  もう過去の恋愛だと理解していたはずなのに、どうしてムキになるような言い方しちゃったんだろう。  まるで未練があるかのような自分の態度に嫌気がさす。  三日月くんは私の卒業アルバムに何て書いたか、もう忘れてしまったのかな?  それとも身も心も大人になって、過去のこととは関係なく接してくれているとか?  さっきは再会したどぎまぎでそれどころではなかったのだが、やはり気になるのは彼に嫌われていたという事実だ。  中学の卒業式。  高校からはバラバラになるからと、クラス全員で卒業アルバムを回してフリースペースにメッセージを書きあったのだが、三日月くんから寄せられたメッセージに私は驚愕。  これは嫌われているのかも、と泣く泣く告白を諦めたという苦い思い出がある。 「でもどうしてかしらね。瞳、あんた三日月くんに何かしたの!?」 「何もしてないよ!」  どうして、だなんてこっちが教えて欲しいくらいだ。  小学校が一校、中学校が一校しかないこの町では、同級生との付き合いが九年、幼稚園や保育園からともなると十年以上になる。  もはや幼馴染レベルで気の知れた同級生という訳だ。  小学校の時はクラスが別々だったこともあり、特に意識をしていなかったのだが、中学で席が前後になったことをきっかけに急速に距離が縮まった私たち。  確かに私は三日月くんに好意を寄せてはいたが、そんなにしつこくアプローチした覚えはない。  好きだけど恥ずかしいから上手く話せないよー、なんて中学生のピュアな恋レベルだ。  何が悪かったのか、どうして嫌われたのか、今でもその理由はわからないままだった。  もやもやとした感情が次第に心を埋め尽くしていく。  会場でまた三日月くんと会わないといけないと思うと憂鬱だ。 「それじゃあ、式の時間に合わせてお母さん来るから。また後でね」  会場の前で降ろされ、心細い気持ちになりながら母に向かって小さく手を振る。 「大丈夫よー! さっきのは冗談冗談! お酒のにおいなんてしないから、気にしないで行ってきなさい!」  こんな時に面白くない冗談はやめて欲しいよお母さん。  母を睨みつけ、無言の怒りを込めて扉を閉める。  ここまで来たら、二日酔いなど吹っ飛ばしてやりきるしかない。  私は軽く唇を噛み締めると、会場へ向かって大きな一歩を踏み出した。  建物内に足を踏み入れた瞬間、首元にひんやりとした空気が伝う。  自分が思った以上に緊張しているのだと、その時初めて気づいた。  玄関先で待ち受けていたのは、町役場の若い職員と実行委員会のメンバーと思われる男女六人の姿だった。 「あれ……? もしかして瞳っちじゃない?」  黄色の派手な振袖の女の子から高らかな声が上がる。  この子、誰だろう。  お化粧してるとわからないー! 「おはよう」  私はその場にいた同級生に向かい、ニコリと笑顔で挨拶した。  一度スイッチが入ってしまえばこっちのものだ。  私は「いつも通り」の、おしとやかでしっかり者の瀬名 瞳を演じていく。  何事もなかったかのように久々の再会をかつてのクラスメイトと喜び、何事もなかったかのように新成人代表の挨拶の段取りを確認し、何事もなかったかのようにリハーサルをこなして式が始まるのを静かに待つ。  二日酔い?  少しも怖くないわ。  なんて余裕の態度でいたら、突然後ろからぎゅっと抱きつかれた。 「ひーとみっ! 会いたかったよぉー!」  襲いかかってくるのは、気が遠くなりそうなほど甘い香水のにおい。  忘れかけていた二日酔いの気持ち悪さが、仲良しだった麻友(まゆ)の登場で、一瞬にして舞い戻ってきた。

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  • 大正むすめ

    寿甘(すあま)

    ♡300pt 〇100pt 2020年2月10日 22時56分

    二日酔いで揚げ物は無理かなー。香水臭はキツイ(>_<)

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    寿甘(すあま)

    2020年2月10日 22時56分

    大正むすめ
  • マオ(えんどろ~!)

    陽向 舞桜

    2020年2月10日 23時03分

    応援ポイント&ノベラポイントまで、本当にありがとうございます!揚げ物に香水。想像するだけでおえーってなっちゃいますよね!笑 よろしければ、またぜひ遊びにいらしてくださいね♪

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    陽向 舞桜

    2020年2月10日 23時03分

    マオ(えんどろ~!)
  • ローナ(えんどろ~!)

    紅林ユウ

    ♡500pt 2020年2月10日 23時37分

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    えんどろ~!セイラ

    紅林ユウ

    2020年2月10日 23時37分

    ローナ(えんどろ~!)
  • マオ(えんどろ~!)

    陽向 舞桜

    2020年2月10日 23時58分

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    続きをお楽しみに

    陽向 舞桜

    2020年2月10日 23時58分

    マオ(えんどろ~!)
  • アマビエペンギンさん

    MUNNIN

    ♡100pt 2020年2月12日 19時22分

    吐く姿が見えるようだ。吐く姿が見えるようだ。吐く姿が……おろろろろ!

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    MUNNIN

    2020年2月12日 19時22分

    アマビエペンギンさん
  • マオ(えんどろ~!)

    陽向 舞桜

    2020年2月12日 21時42分

    コメント&応援ポイントありがとうございます!おろろろろー!よろしければ、またぜひ遊びにいらしてくださいね♪

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    陽向 舞桜

    2020年2月12日 21時42分

    マオ(えんどろ~!)
  • ひよこランチャー

    橋本 直

    2020年2月10日 21時00分

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    応援しています

    橋本 直

    2020年2月10日 21時00分

    ひよこランチャー
  • マオ(えんどろ~!)

    陽向 舞桜

    2020年2月10日 23時00分

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    ありがとうございます!

    陽向 舞桜

    2020年2月10日 23時00分

    マオ(えんどろ~!)

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