最弱魔法少女のレゾンデートル

おめがばぁす?

 コブラを何度もスピンさせながら、横浜デートスポットナンバーワンの山下公園にやってきた。  予想通り台風もここに迫ってきているようで、風雨も全開だ。 「どうやら、僕の予想通りみたいだね。どうよ!」 「さすが妄想厨ってとこね。頭の中でこんなデートしたい~って想像してたんでしょ」 「……」  台風の予測を見事的中させ、自慢げな倫悟に冷ややかなコメント。 「ま、でもお見事ね。あんたやるじゃない」 「そ、そうかな!」  ちょっと褒められると喜ぶ倫悟は、ちょろい。  アイチは車を降りると、暴風雨の中、濡れたまま腰に手を当てて仁王立ちしている。  一方倫悟は、開いたドアから入ってくる雨に辟易しつつ、合羽を着ようと車内で格闘。 「来たわ……魔力を感じる。強い」  アイチがぐっと空を睨みつける。  と、今までの雨が嘘だったかと思うほど、空が晴れて渡って来た。 「なんだよ、合羽着たのになぁ」  空が明るくなると、続けて女性の声が聞こえてきた。  まるで海外の恋愛ドラマの吹き替えみたいな声だ。 「ねぇねぇデイビット、見てここが山下公園よ。あの鐘を鳴らせば人の愛はえ・い・え・ん、なんですって、キャハ」 「へーい、キャサリン、ボクらの愛はそんな迷信に頼らなくたって、永遠なんだゼ」  相づちを打つように男性の声が聞こえてきた。  人が声の方向……空を見上げると、そこには巨大な『目玉』がつ浮かんでいた。 「……台風の目、だね?」  台風の視線がこの公園に向いてるので、ここだけ晴れているようだ。 「あのーすいませーん。一応聞きますが、あなたたち台風ですか?」  台風の目を見上げると、暴風に閉じこめられ連れて来られた南国の蝶か何かがひらひらと飛んでいる。  生態系や遺伝子汚染が心配だ。 「ああ、そうだよ。ボクの名前はデイビット。こっちはキャサリンだ。ボクら、世界各地のデートスポットを巡ってるんだ。人のメモリアルにね」  そういってウインクをした。  それから人? は人目もはばからず、壮大にいちゃこらし始めた。台風の雲が濃密に絡み合う。 「いや、それはとても結構なことなんですけど、周りにちょーっと迷惑っていうか。台風がつとか大変なんですよ。そもそも普通アメリカの台風はこっちまで来ないし」 「Oh! ソーリー。でも少しくらいは許してよ! 人と人との愛ってそういうもんだろ。ほら君だって素敵なガールフレンドと一緒に来てるじゃないか」 「え? 私と誰が? え、ええ? 倫悟のこと? ちょっと冗談はよしてよ」  アイチがやれやれって感じで、鼻で笑う。  その言葉に倫悟は少し傷つく。 「あら、また風が出てきたわね」  辺り一帯に暗雲が立ちこめ、またもや暴風雨に包まれ出した。 「これはボクらじゃないよ。ということはもしかして……」 「ブライアンなの? ここまで追ってくるなんて……。私たちのことは放っておいて!」 「また別の台風が来たの!? 今度は誰ですか?」  新たな台風がやってきたみたいだ。  風音に負けないよう、めいいっぱい声を張り上げる。 「ブライアンよ。アタシの、元カレ、なの……まったくしつこいったらありゃしない」  キャサリンが呆れ声で言うと、デイビッドも頷いた……ように見えた。 「ちょっと待った! ホールド・オン・ナウ!」  少し訛った低い声とともに、新たな目玉が現れた。第三の男、ブライアン、なのだろう。 「Yo! 遠路はるばるボクらの跡をつけて来たってわけかい、ストーカー君」 「ちょっと、ブライアンを刺激しないでよデイビット、キャハハ」 「人共、年上に対する礼儀がなってないんじゃないかね。マインド・ユア・マナー」 「聞いたかいキャサリン。一週間早く生まれただけで大いばりだぜ、アイダホのインテリさんは」  アメリカのハリケーンはABC順に男女の名前を交互に付けることになっている。  ブライアン(B)、キャサリン(C)、デイビット(D)の順に発生したのだろう。  ブライアンのイライラが、伝わってくる。  人がイチャイチャしている様子が耐えられないらしい。ブライアンの方から、風雨がどんどんと激しく吹きつけて来る。 「デイビット、キミのへらず口を塞いでやりたいね。アイ・ウォント・キス・ユー」  ――ん? 何か変な成り行きになってない? キス? 誰が誰に? え、デイビッドに?   そんな疑問を抱きながら横を見ると、アイチがイライラしているのがわかった。  ――でもさ、台風とドライブでテンション上がって、上陸地点は突き止めて来たものの、肝心の退治プランってあるわけ?  倫悟は根本的な疑問を思い出した。 「おいおい、年下に彼女奪われたうえに、未練がましく追いかけて来て、逆上したあげくにファック・ユーだと? 神様はユーの股間に何か付け忘れちゃったのかい?」 「ちょっとデイビットさん、聞き間違えてない? いや、僕が聞き間違えてる?」  倫悟は会話の方向性がおかしくなっているような気がした。 「どういう意味なの? デイビット」 「ブライアンはホントに男なのかよ、って聞いたのサ」 「キャハハ」  人が雲を揺らして笑っていると、ブライアンが地の底から響くような声で言った。 「ああ、未練はあるさ。男じゃなかったらよかったかも、なんて思ったこともある。シンク・ノット・ボーイ」  つの台風は自分たちのやりとりで昂ぶったのか、風雨をどんどん強める。  公園の鐘もガンガンと鳴り、今にも壊れてしまいそうだ。 「こうなったら、もう殺るしかないわね」  倫悟がアイチの言葉に「?」を浮かべていると、彼女はMEUピストルを取り出し、デイビットの目に向かって狙いをつけた。  そして、ガンガンガンと空に向かって連射。  ――でも、効くはず、ないよね。だって核爆弾を何発も打ち込んでも、吹き飛ばないほどのエネルギーらしいっすよ、台風。  とかいう科学博物館で聞いた倫悟の知識は、その瞬間吹き飛んだ。  風を切り裂いた銃弾が虚空に消えたかと思うと、 「デイビッドおおぉぉぉ! ユー・デンジャラス・ゾーン!」  ブライアンが盾となって、デイビッドを守った。  代わりに銃弾を浴びたブライアンはぐったりとする。 「ブライアン、お前……」 「デイビッド、ほんとはオレ、ウィットに富んだお前のことが。アイ・ラブ・ユー」  ――未練ってデイビットの方に未練を残して追いかけて来たってわけね、ブライアンさん。やっぱ僕の聞き間違いじゃなかったんだね。こういうのもBLなのかな? 杏奈だったら喜ぶんかな。 「なんだって!? ボクだってほんとはユーのこと、物知りで頼れるブラザーだな、って思ったり、そこから先も、想像しちゃったり……ガッデム」  空いっぱいのスクリーン。繰り広げられるは、男と男の純情・純愛ストーリー。 「デイビット、せめて、別れの、口づけを……キス・ミー・プリーズ」 「ああ、何度でもしてやるさ。ユーを一人でイかせやしないよ」 「おぅ、デイブ」 「あぁ、ブライ」 「Oh! YES! YES……YE……」  アイチと倫悟は、ねっとりと淀んだBL展開を仰ぎ見る他に何もできなかった。 「あ」  倫悟が声を上げた。  突如デイビットとブライアンが消滅してしまったのだ。  興奮のあまり熱帯性低気圧が上昇気流に変わり、一気に高気圧に。  ブライアンとデイビットという名の台風は昇天してしまった、ようだ。 「どうしてあんな男たちに惚れてたのか分かんない。インテリも、ジョークのうまい男ももういいわ。今度は強くて頼もしいハリケーンを探しましょ」  ショックを受けたキャサリンは、頭をかかえ威力を弱めてゆっくりと東へ移動し始めた。

最近のBLの流行りにオメガバースというのがあるそうですね。 海外からの流入だとか。

この作品をシェア

Twitterでシェア Facebookでシェア このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿