最弱魔法少女のレゾンデートル

レッツ、マジカルクッキング!

 暗い道をとぼとぼ歩く。公園からちょっと行けば、倫悟の家がある住宅街だ。 「さっきの……本当になんだったんだろ?」  考えても分からない。 夢の中のようにぼぉっとしていると、いつの間にか家にたどり着いてしまった。 「ただいまぁ。なんつって、誰もいないんだよねぇ。一人暮らしの始まり始まりっと」  そうつぶやきながら、鍵を開ける。ガチャっと音がなった瞬間、後ろから 「お帰り」   と声をかけられた。 「どわぁあああああああっ」   倫悟は全く予想していなかったことに、思わず叫んでしまう。  聞こえてきたのは鼻にかかった特徴的な女の子の声。忘れるわけがない。  恐る恐る振り向くと「白いワンピースを着たあの少女」が立っていた。 「やっぱり、さっきのォォォォ、おおおう」  言い終わらないうちに、彼女の手にする拳銃でコメカミをグリグリされた。これまた忘れられない感触。 「えっと、な、なんでここに? あっ!」  いつの間にか倫悟の生徒手帳が掲げられていた。そこから住所が割れた訳ようだ。 「やっぱり私のアレ、見てたのね」  彼女はきっ、と睨む。  それから倫悟を押し込んで自分も玄関に入ってしまった。  ――って、家に来ちゃったよー。銃突きつけながら完全に不法侵入だよー。怖いよー。 「んっと、あなたのアレってアレ? っていやいや、見てないよっ! ていうか、その顔、えーっとそうだ、こ、こんなキレイな人見たことないし分かるね。あーうん覚えてる」 「えっ? キレイ? ……って、そういうこと言ってんじゃないのよっ」  彼女は一瞬ポカンとしていたが、すぐさま元の怖い顔に戻った。  そして硬直している彼より先に、家に上がってしまった。  彼女はどんどんと家の中を進んで電気を点けて行く。 「小さな家ね。と言っても周りの家もこんなよね。住所を見ても、ちょっと迷ったわ」  ――うー、普通だと思うんだけどな。建売住宅だから、周りとは大きさも変わんないし。  キッチンに入ると勝手に冷蔵庫の中を開け始めた。腕組みしながらフームと唸っている。  彼女はどんどんと家の中を進んで電気を点けて行く。 「小さな家ね。と言っても他の家もこんなもんか」  キッチンに入ると勝手に冷蔵庫の中を開け始めた。  腕組みしながらふーむと唸っている。 「あの、ちょ、ちょっと」 「何? 私のど渇いているんだけど」  彼女は冷蔵庫から勝手に紙パックの乳酸菌飲料を取り出し飲もうとしていた。 「いや、その前にさ」  バッチーン! 「いってぇっ、何? 何すんの」  質問しようとした瞬間、彼女は問答無用でいきなり倫悟の頬を張った。 「嘘つきっ。見てないって言ったのに。本当は『変身』する前から見てたのね」 「え? 変身? えーっと、なんのことでしたっけ?」  ――うう、ごまかせないかなぁ。でもそれより聞かなきゃ。 「あ、あの、あなた様は、一体何者? なんです?」  一応聞いてみるが、どう考えても『アレ』だった。絶対『アレ』しかない。  彼女はしばらく倫悟を見つめ黙っていたが、乳酸菌飲料をごくりと飲むと、意を決したように口を開いた。 「私の名前はアイチ。高村アイチ。魔……」 「『魔法少女』だよね!」  倫悟は我慢できず、食い気味に口に出してしまった。 「そう、だけど」  大事なことを先に言われてアイチと名乗る少女は、続きの言葉を忘れそうになった。 「そっかー、そうだよね。って……すっげっぇえええええ、本物の魔法少女だぁ! いやほっい!!」 「な、なによ、びっくりするじゃないっ」  アイチは銃口を倫悟の眉間に突きつけた。倫悟はまたもや反射的にハンズアップ。 「じゃなくって。ほら、やっぱり見てたんじゃない。ったく、変身する瞬間を見てなきゃ、私のこと、分からないハズなんだからっ」 「そういうもんなの?」 「そうなのっ」  ――なるほどぉ、魔法少女ってそういうシステム? 魔法になってるんだ。 「あの、それでよかったら、ちょっと、この危険なモノをどけて欲しいかなー、なんて」 「ふーん。私の変身を見といて、この世にまだ未練あるの?」  倫悟は公園に続いて、凄い勢いで頷く。首振り世界選手権優勝レベルだ。 「それに、気がつかないで変身したのアイチ? さんでしょ」 「はぁ? 私言ったわよね『いないならいないって言え』って」 「いやいやいや、それって全然意味なくなくなくない?」  倫悟は必死に抗議、懇願する。  だって銃突きつけられてるんだから。 「まぁ、いいわ。魔法少女がこっち来て、いきなり殺人ってのもアレだしね」 「ですよねー、僕もそう思ってたんですよ。なんか、僕たち気が合いますね。ははは」  倫悟の言葉をガン無視しして、アイチはは部屋をぐるっと見回した。 「あんた家族は?」 「あ、えーっと今は海外に仕事に行っちゃって、しばらくは……」 「ほんとっ! それはナイスね! こういうのをご都合主義っていうのかしら? 民主主義、社会主義、共産主義、ことなかれ主義的な? んー言葉ムズカシイわね」  ――急にテンションあがっちゃって、何言ってんの? この人。 「よし決めた。今日からしばらく、ここを私の活動の拠点にさせてもらうわ。いいわね」 「え、何がいいの?」 「大丈夫。私って、枕変わっても眠れる方だから」 「そういうことじゃなくってよ。知らない人っていうか、女の子を泊めるなんてそれまずくない?」  「安心しなさい。あんたがわたしに何かしたら、即射殺。それなら問題ないでしょ?」 「そうか、問題ないか……って違う! それ、僕の安心要素がゼロ、っていうかマイナスじゃん!」 「いーから、さっさと私の部屋を用意なさいよ。後はお父様がいないなら、洗濯よ」  アイチはまったく話聞いてない。  なんで父親が洗濯と結びつくのかも謎な発言だ。 「『炊事洗濯火事親父』……料理は私がしたげる。その辺はバッチリ勉強してきたし!」 「えー、ほんとに。マジですか」 「いいからさっさとしなさいよ、じゃないと」  そういって、アイチはコルトガバメントの安全装置を解除した。 「あ、はい。じゃ、まぁとりあえず今日だけは、うちに泊めるけど……」  倫悟は覚悟を決めた、というか諦めた。 「ふふん、私の料理を食べたら出て行けなんて言わなくなるわよ。あ、それから私が呼ぶまではキッチンに来ちゃダメ。いいわね」 「え? なんで」 「き、決まってるでしょ。こっちの常識くらい知ってるんだから。バカ。はい、開始開始」  椅子にかかっていたエプロンを手にするアイチ。  訳も分からず倫悟は追い出された。  うがい手洗い、そして顔を洗ってから、主のいなくなった親の部屋を簡単に整理。  海外出張の前にあらかた片付け終わってたようだ。  次に階の自分の部屋の整理整頓。彼にとってはこっちの方が大事だ。  いつ何時、何が起こるか分からないから……とちょっぴりエッチな妄想を振り払いつつ、あんまり女子に見られたくないものを隠す。  マンガや小説の中で肌色成分の多い物は極力奥の方にし、教科書的なものや雑学系の書籍を手前に。  それから各種フィギュア(いわゆる美少女フィギュア)を棚の後ろ側に。   手前には倫悟基準でまだマシなロボット物のプラモや塩ビフィギュアを置いておく。 「コレはかっこいいからよし、と。『テスラダイン』の塩ビシリーズはドラゴクレーンだけ出てないんだよな……」  最近イチオシのロボットアニメ、『超共神テスラダイン』に思いを馳せる……。  ――っと、いかんね、片付けのつもりがコレクション整理になっちゃう。 「ふぅ、これでいいかな。じゃあ、風呂掃除でもしますか」  いつの間にか安心していたのか、彼のお腹は鳴りっぱなしだ。  ガタガタうるさいキッチンを素通りして、風呂場に移動。  昨日のお湯は抜いてあったので、湯船とタイルをさっさと洗う。洗剤をシャワーで流し、栓をしてお湯を張り出した。 「よし、オッケー!」  グラ、グラ、ドンドン! 「ってなんだ? 揺れてる」  どうも断続的に家が揺れている。地震というよりは、何か爆発しているような感じで、異常に焦げ臭い。  ――もしかして、いやもしかしなくてもキッチンか?  不安、疑問、でも好奇心。それらを糧に勇気を出して、様子を見に行く。 「♪♪♪」   しかし、キッチンからはご機嫌そうなアイチの歌声が聞こえる。   事態が想像できないままキッチンを覗いてみると、三口あるビルトイン式ガスコンロの周りは黒くすすで覆われていて、食材のカスが飛び散っていた。  にもかかわらず、アイチはノリノリで歌を続けながら、キャンプファイヤーさながらに燃え盛るフライパンをふるっている。  が、そんなことはどうでもよかった。  倫悟はそのキッチンの惨状よりも、アイチの後ろ姿に釘付けだった。  なぜならば、彼女が身につけているのはエプロンとスリッパだけで、あとは真っ裸だったからだ!  まさに完璧な裸エプロンスタイル。  彼女の後ろ姿は、美少女フィギュアばりに腰の位置が高く、ウエストはきゅっと細い。  なのにお尻はまん丸でボリュームがある。  その上、  ――後ろからなのに、おっぱいがはみ出して見えてるって、どんだけデカいんだよ!  などと思っていたら、アイチが大声で、 「よしっ、カンペキ! 倫悟ぉ、ご飯よぉ。っと、着替えるから分待ってなさい」  と言ってコンロの火を止めた。  それからくるっと振り向くと、倫悟と目があった。 「……んきゃぁああああああっ」  一瞬の間の後、アイチは叫び声と同時に、流しにあった包丁をひっつかみ投げつけた。 「うおっ」  倫悟は反射的にしゃがむと、今まで頭があった辺りの後ろの壁に、包丁が突き刺さった。

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