忘却のアイオーン

読了目安時間:4分

絵里奈の中でいったん区切りをつけた前回

見えていた

「うん、じゃあ、よし。オクタのことはとりあえず許してあげる……というか最初から別に怒っていたわけじゃないんだけどね」 「……いいの?」  奏が絵里奈に確認をしてくる。その顔は絵里奈の代わりに怒っているような表情だった。 「こいつは藍沢さんからお父さんを奪ったのよ。本当は許せないんじゃないの」 「正直よく分からないのが半々です。お父さんの事は本当に何も思い出せないから怒ろうにもちょっと足りないし、でも、お父さんが私達の事をずっと想っていてくれたんだって聞くと嬉しいし……なので今は保留です」 「……本当にいいの?」 「はい」  睨むように見つめてくる奏に対して絵里奈は目を逸らすことなく答えた。奏は絵里奈としばらく無言で見つめ合った後、瞼を強く閉じて大きく深呼吸をするとソファに深く座り直した。 「分かったわ。なら私もこいつ……オクタにはもう何も言わない。私よりもオクタに対して当事者の藍沢さんが怒らないのに私が怒るのは筋違いだわ。……元々八つ当たり気味ではあったしね」  瞼を上げた奏の表情はようやく和らいでいた。 「状況が落ち着いた所でこれからの事を改めて話したいのですがいいですか?」 「元近君……もう少し私達二人にかける言葉があると思うんだけど」 「すいません、気が利かなくて」 「顔も良くて仕事も出来て性格もいいけど、またに抜けているのよね。そこが若い子には魅力的だったりするんでしょうけれど」 「……そうなんでしょうか?」 「い、いや、私に聞かれても……」  元近に急に問われて絵里奈は戸惑った。 (その手の事を聞かれても私、二次元キャラでしか答えられませんからっ)  絵里奈から明確な答えを得られずに元近は困ったように頭をかいた後、気を取り直して寝ている朔斗と傍にいるオクタへを向いた。 「話はだいぶ戻りますがこれからの事です。目下の問題は二点。現在行方不明の『デミウルゴス』。そして朔斗君です。『デミウルゴス』については現状探し出せても私達に出来ることは近隣に避難を促すことくらいでしょう。倒すにはやはり朔斗君、『アイオーン』の力が必要です」 「で、その朔斗君は……もう戦えないのよね」 「ああ、もう戦うことは無理だ。先ほどは一度意識を取り戻したが、もう一度取り戻すかどうかも分からない」 「オクタ、どうにかならないの? 渋谷でもさっきも名前を呼んだら半透明から元に戻ったけど」 「それも元近に話したが呼び掛けた所でわずかに時間を稼ぐことにしかならない。根本的な解決には……」  朔斗が消えるという事実は変わらないと改めて告げられて皆が口を閉ざす中、絵里奈はどうにかならないかと思考を巡らせていた。 「ねえ、オクタ。例えばだけどさ、数千、数万人が朔斗君を呼んだらどうなるの?」 「? 呼ぶという言い方で誤解をさせたが、正確には朔斗という人間がいると認識してもらうことが必要だ。朔斗を知らない人達に朔斗の名前を呼ばせても無意味だろう」 「……朔斗君がいるって認識してもらえればいいんだよね」 「仮に朔斗の事を数万人が認識したとしてもそれで朔斗が助かるかは分からない。前例がない。元々私達『アイオーン』と契約者は人には知られず、忘れられながら戦ってきた。認識されたとしてそれでどうなるかは未知数だ」 「未知数ってことは可能性があるんだよね」 「そういう言い方もできるが……そもそもだ。忘れているかもしれないが我々の事は君達のように『デミウルゴス』の空間に連れ込まれた人しか認識できない。残り数日で君達と同じような人達を探し出して朔斗を見せて回るのは……無理だろう」 「元近さん達みたいなMMPSAの職員の人に頼めば。それなりに人がいるんですよね」  世界規模で活動している組織なら多くの人員を用意できるのではと絵里奈は元近に問いかけた。 「……MMPSAの職員で我々のように『デミウルゴス』の被害者は……数百人程度です。被害者という意味合いではより多くの人がいますが、活動できているのは一握りですので」 「私達と同じような人を見つけても再びあの化け物……『デミウルゴス』に関わろうなんて人は少ないのよ。自分達も他の人達同様に居なくなった人を忘れて過ごしている人が多いのよ」  元近に続けて奏が補足する。 「そう……ですか。そうですよね。私も出来るなら『デミウルゴス』がいるってこと忘れたいですし。普通の人達にも朔斗君を認識してもらう方法か……見えない。オクタ達は普通の人達には見えない。そこをなんとかしないと……ん? 見えてた?」 「? 誰に見えていたの?」 「先生と宏香……そう! あの二人は見えてましたよ!!」  絵里奈は頭の隅に存在していた疑問の正体をようやく突き止めて興奮して立ち上がってしまった。

朔斗を救うためにみんな考えている。

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