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2010.05.03 漫画感想 937字

【漫画】珈琲時間 (豊田徹也)

 「とりあえず戻って もう一杯コーヒーを飲もう。 寒くってやりきれない」  『アンダーカレント』の豊田徹也先生が描く、珈琲を軸にした連作短編集。冊完結。  胡散臭い映画監督や、飄々とした私立探偵、追い詰められたチンピラ、チェリストの女性、シングルマザー、親を刺してしまった少女……色々な人々の日常や出来事が話完結型で描かれ、その全てに珈琲が関わってくる、という構成。  人々をバラバラに描いていながら、終盤ゆるやかに話が繋がって行くのもまた面白い。  しかも珈琲がキーアイテムではなくて、あくまでも小道具の一つとして使われている所がとても良いです。  冒頭に抜き出したのは、とある悲劇に直面した映画監督がチェリストの女性に言う言葉。寂寞ともいえる場面の中、ぬくもりの象徴、日常へ少しでも回帰する希望の象徴として、珈琲を小道具として使っています。  お話としてはちょっとコメディ色の強いものもあれば、ファンタジー的な話もあって様々ですが、全体的には人々の人生の一場面を丁寧に切り取ったお話が多いです。  前作のアンダーカレントでもそうだったんですが、豊田先生の漫画で普通と一味違って面白い所は、悩んでいる人や別離した人なんかの「悲しみ」に、敢えて読者を感情移入させようとしない所。普通の漫画だったら、幸せな時期や生い立ち等の背景を情感を込めて描く事によって、登場人物の「悲しみ」に読者を同調させようとするんですよね。いわゆる「泣かせ」のシナリオで、それはそれで結構好きなのですが、豊田漫画は(おそらく)わざとその辺をハズして描いています。  こういう、淡々と、しかし冷たくならないように人々の人生を描く事で、「そこから何を読み取るか」を読者に選択させるスタイルの漫画は割と好きです。  自分としては、物語を通して、たとえどんな状況でも「一人で珈琲を飲む場面が一度も無い」という事が、この漫画に込められた豊田先生の答えの一つのような気がしています。  たとえどんな事があっても人は人と関わらないでは生きていけない、という諦めと希望と寂しさと暖かさと苦しみと喜び。  そして、そこにある一杯の珈琲。    実に味わい深い一冊です。オススメ。  

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