花泥棒と秘密の猿たち

読了目安時間:4分

エピソード:23 / 37

第二十三話

 彼の話を統合すると、つまるところ音楽とは彼の種族における兵器のようなものらしい。ある種の音の発する波長は、血気盛んな軍隊さえも牧場に飼われた牛のようにおとなしくさせる作用があるそうだ。しかもそれは地球における七〇年代から八〇年代後期のロック・ミュージックに顕著だそうだ。またmp3やCDのデジタル化した音源では効果がなく、レコードへ針を乗せた上で巨大な蓄音器で聴かせることで効果を最大限発揮できるらしい。 「恥ずかしながら同じ種族間での争いさ。きみの星のように」  彼の皮肉を僕は無視した。見解を述べられるほど僕は偉い人間じゃない。 「きみの国でも同じ意味の現象があったよ——『龍脈』ってやつが原因だ。星の裏側には血液のように流れる川があって、その地脈には膨大なエネルギーが流れている。だけどそのエネルギーがまれに地上に噴き出すポイントがある——温泉みたいにね。それが、『龍穴』」  口を慎んで彼の話に耳を傾ける。 「ぼくらの星ははじめ一つの大陸で、まわりは海で囲まれていた。ぼくらの種族はそこで繁栄を続けたんだ。ナンバー1から38万2467までだね。だけどあるとき、地殻変動が起こって——パキン。二つの大陸に分かれてしまった」  僕は7188氏から火を借りる。自分のタバコに火をつけた。 「ぼくらナンバー1から21万とんで58までは幸いだった。そばに『ピグマリオン』が居て庇護を受けることができたから。だけど、済むところが異なれば考え方は違う。優先順位だって異なる——21万59から38万2467は『ピグマリオン』を否定しはじめた。兵器をいくつも製造し、ぼくたちに攻撃を仕掛けてきたんだ。同じくして、ぼくたちにも戦う理由ができた——けして自衛のためじゃない。『ピグマリオン』が必要とする龍穴はあちら側の大陸にあったんだ。そう、侵略戦争の始まりさ」  7188氏の持つタバコはほとんどが灰になっていて、やがて月の砂だらけの大地にぽとりと落ちる。 「とてもひどい戦争だった——勇敢な兵士はみな死に、また新しく生まれ変わるサイクルができた。38万2468から順にナンバリングされてね。臆病な兵士は未だにナンバーを変えれずにいる。このぼくが最たる例だ。だからこんな辺鄙な土地まで飛ばされて、戦闘の収束のためにレコード収集に励んでるって訳さ」  ひと呼吸おいて、7188氏は自分のタバコがフィルターを残してなくなってしまったのに気づく。照れ隠しに「失敬」とことわり、新しいタバコに交換する。 「きみらの科学力は地球よりも何倍も進んでいる」僕は言った。 「もしかしたら相手の勢力を根絶やしにしてしまうほどの破壊兵器だって作れるんじゃないのか?」  7188氏はポリバケツのふた部分を——人間でいうところの首ねっこの部分を——ぶるぶると震わせながら、 「きみは恐ろしい提案をするね」と言った。 「そうだね、強いていうと宗教上の理由だよ。『ピグマリオン』は無益な殺生を好まない。それにぼくらは生まれ変われるけれど、タダで輪廻できるならそんなうまい話はない。絶対に痛みを伴うんだ。——『ピグマリオン』は痛みを感じるのを推奨していない。また、相反する勢力だってポリシーがある。人道的じゃないのは、誰だってやりたくないだろう?」  僕は黙った。ふう、と大きくため息をついてから「協力するよ」と答えた。 「ありがとう」と彼は力なく返答した。心細げにフタの口から搾り出された声は冬の幽霊のように行き場をなくし、やがて消えていった。 「お礼にきみに伝えておこう。ぼくが君を選んだ理由も『龍脈』なんだよ。ぼくらはみんな生きている。ぼくら生き物のあいだでも微力ながらそのエネルギーは流れているんだ。……ほんのちょっぴり、だけど。きみはね、溜め込めておける容量が多いみたいなんだ」  彼は言った。 「きみが河川敷を走っていたのを見て、ぼくはびっくりしてしまった。きみはエネルギーに充ち満ちていて、黄金色に輝いていた。目が眩んでしまうほどに。それから、——無作法で失礼な真似をしたのは謝るし承知の上だけれど——身体を調べさせてもらったとき、人さし指の腹部分が硬くなっていると気づいた。——きみはなにか楽器をやっているね? ……だからこそ、ぼくの任務には適任な人材だと思えた。きみはまさに『億人に一人』の逸材だったんだ」  ……億人に、一人。叔父が僕に言い続けていたフレーズだ。なんだかおかしかった。童心をくすぐられるようで珍しく僕は饒舌になった。 「——きみと話をしていると子供の頃の自分を思い出すよ。あのころ僕は人の目や言葉に敏感で、他人の内緒話に聞き耳を立ててしまったりしていた。自分が他人にどう思われているのか、不安でたまらなかったんだ」息を吸い込み、ふたたび口を開く。 「きっと僕は自分ってものがなかったんだろう。恥ずかしい話さ」  叔父から発せられた「王様になる」という予言をいったん僕は棚に上げる。 「子供の頃?」  耳を傾けていた7188氏はポリバケツの持ち手ののあたりを——人間でいう頭の部分にあたるだろう箇所を——ぽりぽりと掻いている。 「きみの言っている意味がよくわからないな」  彼は自前のキャタピラで月の荒れ果てた大地に降り、僕の周りをまたくるくると回りはじめた—— 「ぼくはこの通り、生まれた時からこの姿だからね」

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 剣と恋と乙女の螺旋模様 ~持たざる者の成り上がり~

    零加護、スキル無なゼン君の波乱万丈な冒険

    407,099

    30,622


    2021年9月27日更新

    笑いあり涙あり感動ありロマンあり笑いありの、一大アクションファンタジー巨編ここで、第一部閉幕、完結となりました!お読み下さった皆様方、ありがとうございました! ★ノベプラでは、何度かジャンル別日刊上位に! 1章と2章の差に戸惑う方も多いみたいですが、生暖かい眼差しで見守ってやってください。最後の章はもっと凄いのでww 第1章 ポーター編 ネタバレ的あらすじ 多くの謎を抱えたスラムの少年ゼンは、そんな事はお構い無しに名付け親であるゴウセル商会長に気に入らると、冒険者になる事を勧められ、新米冒険者パーティー『西風旅団』にポーターとして参加する。そこでもゼンは特異な才能を発揮して旅団の4人(リュウ、ラルク、アリシア、サリサ)に仲間として認められ、冒険者見習いとなる。ゼンを養子にと望むゴウセル、その婚約者のギルマス・レフライアに、4人の仲間達との、今まで得られなかった幸福で暖かな日々。それはいつまでも続くかに……。 ●感想、意見、ご希望、なんでも歓迎中です。誤字報告は特に。 連載は、なろう、カクヨム、アルファポリス、ノベプラにて。 第2章 流水の弟子編 ネタバレ的あらすじ あれから2年半が過ぎ、厳しい修行の旅を終えて、強くなって帰って来たゼンを待つのは、義父と慕うゴウセルの商会の乗っ取り借金騒動に、西風旅団の迷宮での失敗により、解散寸前までに追い込まれた二人の実力の伸び悩み?それに対して、成長した『流水の弟子』は、その身に秘められし7人の従魔と共に、事態の収拾へと乗り出すのだった…。 第3章 従魔術編 老魔導士『東の隠者』パラケスは長年の研究の末に解明した、『従魔再生契約技術』略して従魔術を、パラケス翁の助手も勤め、自ら従魔を保持するゼンが、冒険者ギルドの研究棟に急遽新設された『従魔再生契約技術研究部』、略して従魔研にて専属講師として、その技術の細かな伝授を始める。 その為にゼンは1カ月、本来の冒険者活動が出来ないのだが致し方ない。 従魔研での新たな出会い。センはいつになったら平穏無事な冒険者生活を取り戻せるのか?!恋愛戦線にも意外な横やりが?!こうご期待! ※表紙イラストに、第2回ノベルアップ+イラストコンテストの、花紙現代様のイラストを使用させていただきました。ありがとうございます。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:39時間55分

    この作品を読む

  • 男装少女は言い出せない

    男装少女の体験する、非日常。

    868,632

    25,245


    2022年5月25日更新

    人でないものが飛び交い彷徨う、そんな森に囲まれた小さな村で暮らしていた少女、シルヴィ。 唯一の身内である祖母の死をきっかけに村から出て仕事を探すが、村の外へ出て来てみれば人に騙され、村にはいなかった黒く気味の悪いものもそこかしこに見える。 男装して転がり込んだ廃屋のような教会で少年として雇われるが、雇った青年も普通じゃなかった。 女だってばれたら解雇かも? いやいや折角手に入れた衣食住、手放すわけにはいきません。 ※ふわっとした世界観で書いていますので、「そこはちょっと」と思われる個所も多々あるかもしれませんが、ご笑覧いただけたらと思います。 週に一、二度位更新できたらいいな、と思っています。 他のサイトにも掲載しています。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:15時間6分

    この作品を読む