Amazonギフトカードが当たる会員登録キャンペーン実施中!詳しくはこちら

花泥棒と秘密の猿たち

読了目安時間:2分

13=9/11.all day long

第二十七話

 日曜日の告別式は滞りなく行われた。土曜日のライブのあと、そのまま帰宅した僕は服も着替えずにベッドに倒れこんだ。疲労が重なっていて夢も見ない正体のない眠りだった。意識を取り戻したときにはもう家を出なければいけない時間に近くなっていて、慌てて制服に着替えて家を出た。  急いだおかげか、式典開始時刻の三〇分前には式場に到着した。駅から一〇分ほどの場所で、後日母に聞くと急な弔問でも対応できる斎場を業者と打ち合わせて指定したそうだ。  父は式場で一番目立つ場所に居た。  生花に囲まれた白木祭壇の中央にあった父の遺影は——家では見る機会のなかった、精悍な顔つきで真正面を見据えている写真だった。出処はいつか弟が見せてくれた新聞に掲載された時の画像と同じで、会社で広報用に撮影されたものだった。  その下に桐張りの棺が鎮座していた。正面から左手が頭部分らしく、棺の蓋に扉がある。そこを開くと主役の顔が覗けるつくりになっている。  僕はそれを開いた。  自然と、涙があふれた。父の顔は生気を失い土気色になっているが、高い鼻筋と厚い唇はまさしく彼のものだ。号泣し嗚咽混じりになりながら視線を感じる。葬儀社のスタッフからのらしいそれを完全に無視した。かまわない。身内の死に涙する遺族なんて彼らとしても何も珍しくはないだろう。せめて今、この時だけは感情を露わにする僕を僕自身は許した。  そのときはじめて、自分が父親を愛していたのに気がついた。  一週間の猶予は葬儀会社にとって「父の人生」という題材の短編映画を制作するために十分な期間だったらしい。告別式の開始後まもなく上映されたその映画で、彼の生まれた年に起きたわが国の政界の出来事や国内外の歴史を否応なしに記憶させられた。  父と母のなれそめをその映画ではじめて知った。父が営業職で各地をまわっているとき、担当のガソリンスタンドのアルバイトとして働いていた母を見初めたのがきっかけだそうだ。よくある話だ。ナレーションによると十歳以上年齢の離れたカップルだったが周囲でも評判になるほど仲が良かったそうだ。趣味が共通したため交際が始まったと説明していた。でも「共通の趣味」とやらについて僕には思いあたるふしはなかった。  映し出されていた静止画像はふたりのツーショットで、年若い母と温厚そうな中年になったばかりらしい父の姿がそこにはあった。アルバムを開いたりだとか機会はあったはずだ。でも父は自宅でいつも眉間にしわを寄せていたから、若い父をはじめて見るような錯覚に陥った。

Amazonギフトカードが当たる会員登録キャンペーン実施中!詳しくはこちら

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 言葉喪亡

    新たな短編集です。

    6,600

    0


    2021年9月29日更新

    話を紡ぐたび、言葉が消えていく。 カミサマのゲームは今日もつづく。

    読了目安時間:15分

    この作品を読む

  • 「ついてない」男。

    女→男になった画家が生き方にあがく物語。

    14,000

    11


    2021年9月28日更新

    「本物の男になれないのなら、僕がこの世の中のいる意味はないのだろうか」 FTM(女→男になった人)でゲイの瀬戸旭は苦悩し続けていた。 本物になりたいという事と、画家になりたいという2つの願望があった。 ある時、瀬戸旭はスランプを脱する為にゲイバー「グラーニェ」に向かい、そこで二人の同性愛者のカップルに出会い 流れで二人の家で飲み直す事に。 荒木拓哉と三木春光。二人はパートナーシップ制度を利用して結婚をし共に生活をしていた。 そんな二人と話しているうちに、春光と旭は共に同じ美大の先輩と後輩にあたる事が判明する。 「大学のよしみだし、敬語じゃなくてもいいよ。ふつーに友達って感覚でいいから」 同じ画家同士の交流が始まる。 ※同性愛の描写を含みます。BLなどが苦手な方はご注意ください。 自作小説「はっちゃん。」に登場したキャラクターも登場します 続編的な側面もありますので、前作を読んだ方も楽しめます。 表紙は自作です。 不定期更新

    • 性的表現あり

    読了目安時間:2時間3分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る