書籍版『ようこそおいでませ、あやかしの商店街へ~巡り巡ってまた巡る~』

読了目安時間:8分

エピソード:4 / 9

第3話

 ✱ ✱ ✱  翌日、真司は昨夜の出来事と菖蒲との出会いを思い出し、授業に集中できないでいた。あっという間に一日が終わり、真司は肩を落としながら下駄箱へと向かっていた。 「授業、全然頭に入らなかった。はぁ……」  昨夜、菖蒲と出会い、妖怪の町に行き本物の妖怪を目にした真司。それはまるで、夢のように現実味が無かった。  ふと、前髪越しからチラリと廊下の端を見ると、小さな黒い物体がうようよと動きながら移動していることに気がついた。それは少々丸みを帯び、ススの妖怪に似ていた。  その物体と目を合わせないようにして、真司は再び歩みを進める。  ――それにしても、あそこまではっきりと妖怪を見たのは初めてかも。  そう、真司は〝人ではないモノ〟が見えるが、あくまではっきりと見えるわけではない。真司の目からは影やモヤのようにしか見えず、色や形がなんとなくわかる程度だった。稀に声が聞こえるときもある。  もしかしたら、妖怪ではなく幽霊かもしれない。どちらにしても、真司にとってそれらはトラウマを抱える原因を作ったものに変わりはなかった。  真司は昔のことを思い出し、苦虫を噛み潰したような顔になる。それを忘れるように頭を軽く左右に振ると、靴を履き替え校門へとむかった。  その途中で、真司は門の前で佇んでいる人物に目がいった。まるで引き寄せられるように、真司は自然とその人に近づいていく。  そして、ハッとしたときには「あっ、菖蒲さん?!」と、声を出していた。名前を呼ばれた菖蒲は、真司を見つけると手を軽く振って微笑んだ。 「真司。なかなか出て来ぬから、いないかと思ったぞ」 「菖蒲さん、どうしてここに!? それに、どうやって僕の居場所がわかったんですか!?」  驚いた顔で次々と質問する真司はき菖蒲は少しポカンとすると、着物の袖口を口元に当てておかしそうにクスクスと笑った。 「驚いたかえ? どうも、夜まで待てなくてねぇ。だから、お前さんの通う学校まで迎えに来たということじゃ」 「そ、そうなんですか……」 「ちなみに、お前さんの居場所がわかったのは、昨夜、その制服を着ていたからじゃ」  真司は自分の体を見下ろし「制服ですか?」と、言った。  菖蒲はまたもやクスクスと笑う。 「ここいらで学ランの制服といえば中学校ぐらいしかないからね。どの中学かは、ちと迷ったが……そこは、情報収集の賜物というやつじゃ」  妖怪の町で別れてから、まだ一日しか経っていないのに、菖蒲は真司の居場所を突き止めた。妖怪の情報網はかなりすごいということがわかる。 ――でも、いったい、どこからそういうのを知るんだろう?  そう思っていると、コソコソと話す周囲の気配を察知し、真司は我に返った。 「なぁ、あいつおかしくない?」 「さっきからひとりで話してるで」 「変なの」 「え、ヤバい系なやつ?」  変なものでも見るような目で真司を見て、少し距離を置くように横を通り過ぎる生徒たち。  人間の姿をしているから忘れていたが、彼女は他の人に見えないのだ。  真司はほかのせいとたちと目を合わせないように、何も聞こえなかったかのように俯いた。菖蒲はそんか真司を見て「うむ……」と、呟くと名前を呼んだ。 「真司」 「は、はい……」  真司は顔をほんの少しあげるが、あくまで菖蒲とは目を合わせない。 「他の者にも私の姿を捉えられるようにもできるが、そうしようか?」 「……え?」 「妖怪は人に化け、人を驚かす。ゆえに、人に姿を見せることもできるのじゃ。特に力の強い妖怪ほど、人に近い姿で変化することができる」  真司は慌てて菖蒲の腕を掴み「や、やめてくださいっ!」と言った。菖蒲は一瞬驚いた顔をするが、真司のなにかに怯えたような目を見ると、すぐに冷静な表情になった。  真司の手は微かに震えている。菖蒲はそんな真司の手に触れると、ふっと微笑んだ。 「あい、わかった。お前さんがそう望むならやめておこう」 「菖蒲さん……」 「では、さっそく掛け軸のあるお前さんの家へと向かおうぞ!」  そう言うと菖蒲は真司の手を取り歩きだした。  真司は引っ張られるようについていく。どうやら家の場所もわかっているらしい。  不自然な歩きかたに、周りは奇怪な目で真司を見ていたが、なぜか手を振り払おうという気持ちになれなかった。むしろ、菖蒲に引っ張られることで自然と俯いていた顔があがり、背中を押されているような気がしたのだ。  ――本当に不思議な人だ。人間じゃないのに怖くないし、優しい。それに……温かい。  真司のことを奇怪な目で見る生徒は住宅街に近づくにつれて減り、無事に家の前まで着くと真司は安堵の息を吐いた。 「真司、家の者はおらぬのかえ?」 「はい。両親は今頃仕事ですから」 「そうか。ふむ……」  菖蒲の考え込む姿に真司は首を傾げたが、気にせず玄関の門扉を開け、菖蒲を招き入れる。 「どうぞ」 「うむ。お邪魔するぞ」  真司の家は、学校から歩いて五分ほどの一軒家が建ち並ぶ通りにある。家の前で菖蒲はなぜか、隣近所の家と真司の家ヲ見比べている。 「それにしても、お前さんの家は立派な洋風じゃの。なんともかわいらしい。ドールハウスにありそうな家やねぇ」 「引っ越してきたばかりで、リフォームしたんです。中でも庭の手入れは母の趣味なんですが……僕も父も恥ずかしいぐらいです……」  ドールハウスとまではいかないだろうが、庭には季節の花が植えられているだけでなく、小さな動物の置き物などがある。真司も、メルヘンチックすぎるとは思っていた。他人にそれを指摘され、恥ずかしい気持ちになる真司だが、ふと、小さな疑問が頭によぎった。  ――というか、今、菖蒲さん、『じゃの』って言ってなかった? いや、さっきから言ってるよね……? 「ふむ。どうりでお前さんはこの土地の言葉を話さないわけやね」 「そうなんです。僕は、もともと東京生まれなので」  確かに、転校してきた当初は、クラスメイトは標準語で話す真司に興味津々で話しかけてきた。 『関西弁にせぇへんの?』 『うわぁ、標準語で聞くと、なんかめっちゃゾワゾワするわぁ』  そんなふうに言う者もいた。  やがて人と接することを避けているうちに生徒たちの熱も冷め、自然と真司から離れていった。それに、家では家族も標準語なので、真司は自分の話す言葉について次第に気にしなくなった。  真司が全然話さないのもあるのか、一度興味の熱が冷めてからはクラスメイトも真司の喋り方については特に追求しなくなった。そのかわり、話しかけてくることもなくなったが……。  少ないながらも学校での友達はできたが、その友達も真司の話しかたについては気にしていないようだった。  それよりも、真司は菖蒲の喋りかたの方が気になっていた。  ――菖蒲さんの話かたは、大阪の言葉というより、なんだかお年寄りみたいだなぁ。かと思えば、京都の舞妓さんみたいなときもあるし……う~ん……謎な人だ。  不思議に思っている真司とは裏腹に、菖蒲は納得したかのように頷く。 「ふむふむ。なるほど。して、掛け軸はどこぞ?」 「あ、そうでした。今、持ってきますので、僕の部屋で待っていてください。部屋に案内しますね」 「あい、わかった」  玄関の鍵を開け、菖蒲を家の中に入れる。そして、二階に続く階段をのぼり、自分の部屋へと招き入れた。  真司の部屋は普段から掃除をしているのか、とてもきれいだった。ダークグレーのL字デスクは、部屋に入って左手奥に設置され、デスクに付いているラックには真司が読んでいるファンタジー小説や参考書が並んでいる。デスクの反対側の壁にはベッドがあり、部屋の中央には折り畳み式の小さな四角いテーブルが置かれている。壁には、ラックに収まりきらなかった本が並ぶ本棚と、映画鑑賞をするためのブルーレイプレイヤーとテレビがある。全体的に子供っぽさがなく、成人してからも使えるような部屋だった。 「座布団とかないですけど、好きなところで寛いでいてください。それじゃ、今持ってきますね」 「うむ」  階段を下りると、真司は庭に面したリビングから外に出る。  庭の隅には大きな物置があった。中には、母親が大事にしている物や父親の釣り道具の他に、菖蒲の家で見たような壺や古い着物などもしまわれている。両親はこれらをどこから集めてきたのか、不思議に思うほどいろいろな物が置いてある。  真司は、奥の棚にある掛け軸を手にして再び自分の部屋へと戻った。 「お待たせしまし……って、なにをしているんですか!?」  部屋の扉を開けると、真司は目の前の光景に驚き、手に持っていた掛け軸を落としそうになる。  真司が目にしたもの、それは、菖蒲が犬が伏せをしているみたいな格好でベッドの下を覗き込んでいる姿だった。  菖蒲は、その格好のまま真司に顔だけを向けた。その表情は、なにが変なのかわからないといったような顔だった。 「む? ふむ、見ての通りやの」 「はい!?」 「うむ、最近の若者はベッドの下にイヤラシイ物を隠しておると、〝お雪〟から聞いてのぉ。せっかくやし、確かめようと思って」  真司は頭痛がしてきたのか、眼鏡を少しあげ眉間を軽く揉むと溜め息を吐いた。 「菖蒲さん……普通は、そんなところにありませんよ……」 「なんじゃ、そうなのかえ? つまらんのぉ~」 「それに、そもそも、そんな物僕の部屋にはありません」 「な、なんと!?」 「その……そういうのは、少し……僕には早いかと……」  真司は目線を菖蒲から逸らし、頬を掻く。ほんのりと赤く染っている耳を見ると、どうやら恥ずかしいらしい。そんな真司の姿を見て、菖蒲は着物の袖を口元に当てクスクスと笑った。 「おやまぁ。ふふふ、お前さんは初心やの」 「…………」  さらに恥ずかしくなり俯く真司は、菖蒲になにも言い返せなかった。イヤラシイ本はともかく、初心なのには自覚があったからだ。  ――まったく、そのとおりです……うぅ……。

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