書籍版『ようこそおいでませ、あやかしの商店街へ~巡り巡ってまた巡る~』

読了目安時間:6分

エピソード:8 / 9

第7話

 * * * 翌日、真司は放課後になると、さっそくあかしや橋へと走って向かっていた。  人ならざるモノとはもう関わりたくないと思っていたが、菖蒲と出会い、妖怪から初めてお礼を言われて、その気持ちが少し変わったのだ。まだ過去のことを思い出すと心が苦しくなるが、真司は信じている。  菖蒲が昨日言った『今よりもよい方向へと変わる』ということばを。 「はぁ、はぁ……」  堺市は山の表面を削りコンクリートを埋めた場所が多く、見た目が平坦でも実は坂だったという道がとても多い街だ。だから、山道に慣れていない人は、すぐに息があがってしまう。  それ真司も同じだった。真司は、少しでも楽になるように学ランの首元のボタンを開け、深呼吸をしながら息を整える。  目の前には、あかしや橋がある。菖蒲がくれたブレスレットに一瞬だけ目をやると、真司は再び前を向き、あかしや橋へと一歩大きく踏み出した。  その瞬間、ブレスレットが淡く光り出す。  すると、あかしや橋と書かれているプレートの文字がゆらりと揺れ、文字があ〝や〟かし橋へと変わった。後ろを振り返ると、来た道は霧に覆われ見えなくなっていた。  目の前に朱色の大きな鳥居が現れる。周りの景色は霧で見えないのに、橋の名前が記されたプレートに橋、そして、鳥居だけははっきりと見えていた。  ――妖怪の町『あやかし商店街』。  この先に進む人はいない。けれど、初めてここに来たときよりも怖さは感じなかった。  真司の心は少しだけ軽い。だからなのか、鳥居の中へと向かう足取りは軽く、自然と笑みが浮かんでいた。  真司があやかし商店街――つまり、妖怪が運営する妖怪だけの町へと来たのは、これで二度目である。  一度目は掛け軸のお願いのため。本日二度目は、他でもない、菖蒲に会うためだった。  真司があやかし商店街に着くと、商店街の入り口で着物を着た菖蒲が微笑みを浮かべながら待っていてくれた。 「菖蒲さん……!」 「ふふっ、よう来たね。来ると信じておったよ。む? おやおや? てっきり、その長い前髪を切ってくると思ったんやけどねぇ」  真司は自分の長い前髪に触ると苦笑した。  最初は切ろうとしたが、この視界とこの長さに慣れており、突然バッサリと切るのに少しためらったのだ。 「切ろうとはしたんですけど、なかなか……あはは」 「お前さんのことやから、そう言うと思ったよ。だからねぇ」  そう言いながら、菖蒲は楽しそうに袖口からゴソゴソと何かを取り出す。そして、それを真司の前髪に挿した。 「うわっ!?」  前髪を上げられ、真司は視界が明るくなったことにすこし目を細め、自分の頭になにか付いているのに気がついた。  どうやら、前髪を留められたらしい。 「あの……これ、なんですか?」 「ヘアピンやよ。かわいかろう?」  ――そう言われても、自分じゃ見えないんですけど。 「それはね、お雪が真司にと言ったんよ」 「お雪?」  真司は、聞き覚えのある名前に、いつどこでそれを聞いたのか思い出そうとする。 「あ、そうだ。お雪さんって、菖蒲さんが僕のベッドの下を覗いているときも言っていましたね」 「うむ。まぁ、ここで立ち話もなんやから、私の家に向かおうじゃないか」 「は、はい」  真司は慌てて菖蒲の隣に並び、商店街を歩き始めた。やはり、今日の商店街もとても賑わっていた。  真司は、自分の人ならざるモノが見える体質について少し前向きになれたつもりでいたが、実際に妖怪だらけの商店街に来ると怖気付くような気持ちになった。  ――人間の僕がここにいても、本当に大丈夫なのかな……?  異形な姿をしている妖怪たちが恐ろしく、目を合わせないように下を向きながら歩いていると、大きな声で客引きをしている妖怪が現れた。  真司は下を向きながら窺うようにその妖怪を見ると、八百屋を営むひとつ目の男だった。一見人間のように見えるが、こめかみまで伸びている柿褐色の頭髪に長い髭、そして細かい毛が全身を覆っていた。そのうえ、上半身は裸だ。 「今日はきゅうりが安いよ~! 『新鮮屋』の新鮮や! がはははっ! さぁさぁ、買った買ったぁ!!」  なにがおかしいのか豪快に笑う半裸の妖怪に、真司は首を傾げ、隣の店をチラッと見る。  八百屋の隣はどうやら魚屋らしい。店頭には魚はもちろん、貝やカニ、お酒のおつまみにもなりそうな塩辛やタコわさびなども売られていた。  そして、それらを売る妖怪も、八百屋同様変わった姿をしていた。体は丸く頭には風呂敷を被り、達磨のような髭の生えた顔をしているのだ。手は魚の鰭のようで、達磨なのか魚なのかわからない。  どの店の店主も妖怪ばかりだが、皆、元気よく店を開いていた。無論、店を訪れる客も人間には見えない。  真司がコソコソと商店街を物色していると、八百屋の妖怪に声をかけられた。   「よっ! そこの兄ちゃんどうや? 新鮮な野菜はいらんか?」 「えっ!?」  ――ぼ、僕!?  突然声をかけられた真司は驚いてしまう。すると、真司を守るかのように菖蒲が前に立った。 「これ、山童。野菜は今はいらんし、こやつに絡むな」 「えっ! あ、菖蒲様!! じゃなくて、菖蒲姐さんじゃねーすか。へ、へへへ……こりゃ失敬失敬」 「イケてる兄ちゃんがいたんで、つい……はははは」 「は、はぁ……」  真司は曖昧な返事をする。  そう、真司は前髪をあげれば、そこそこの容姿をしているのだ。と言っても、当の本人にはまったくその自覚がないのだが。 「うむ。確かに真司はかわいいの。初心やしの。そこは認めようぞ」  ――か、かわいい!? た、確かに……昔は、母さんに女の子の服を無理やり着せられたけど……。  真司はなぜか少し複雑な気持ちになった。  そんな真司のことを山童は横目で見ると、今度は腕を組み、目を細めながら上から下までジロジロと見ていた。真司は恐怖を感じ、一歩身を引く。 「な、なんですか……?」  ――うぅ…。や、やっぱり怖い! 「うーん? お前……もしかして、人間か?」  その言葉に真司はぎょっとし、顔から一気に血の気が引いた。  ――バ、バレた!  真司の正体に気づいたのか、それとも山童の会話を盗み聞きしていたのか、商店街で買い物をしている他の妖怪たちも足を止め、真司のことをジーッと見始めた。  真司はどうすればいいのかわからず、菖蒲の着物の袖を引っ張る。 「大丈夫やから、そんな不安そうな顔をせんでもええ」  菖蒲は微笑みながら真司に言う。そして、山童に向き直ると、袖口を口元に当て笑いながら言った。 「この子は、お前さんの言うとおり人間やよ。この子になにか悪さをしたら、私が許さないから、そのときは……覚悟しておくことやねぇ」  山童や何気に会話を聞いていた他の妖怪たちがゴクリと息を飲んだのがわかる。それぐらい、先程の菖蒲は妖艶で、恐ろしい雰囲気が出ていたのだ。  山童や他の妖怪たちも「これは本気だ!!」と、心の中で思う。中には、全身から冷や汗を流している者や顔から血の気が引いている者もいた。  真司は気づかなかっただろうが、妖怪たちは気づいている。菖蒲が少しだけ殺気を出していることに。  その場にいた妖怪たちは冷や汗をかきながら苦笑すると、そそくさとその場から逃げ出した。 「い、いやですよ~、姐さ~ん。ははは……お、おお俺らが、そんな人間をどうこうしようなんて考えていませんって! な、なぁ、皆!?」 「う、うんうん」 「そ、そうです、菖蒲様!」  菖蒲は、妖怪たちの言葉を聞くとニコリと微笑んだ。 「なら、ええんや。ほら、はよう行くえ真司」 「あ、は、はいっ!」  菖蒲と真司が八百屋をあとにして歩きだすと、妖怪たちはホッと安堵の息を吐いた。 「いや~、これは妙な人間がやってきたもんだなぁ。菖蒲姐さんのお気に入りかぁー。しかし、さっきの姐さん……怖かったぁ。おぉう、くわばら、くわばらっ!」

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