一覧
春休み、大学生の葉は、とある場所に足繁く通っていた。そこは、築三十年の古いアパート。姉が生前、婚約者と同棲していた部屋だった。親に命じられるまま、姉の荷物を整理するために上がり込む部屋には、未だに元婚約者が暮らしており──彼と接する度、葉は叶う事のない恋愛感情を、自覚する。 片付けの最中、二人はシンク下に収納されていた、十二本のボトルを発見する。それは、姉が生前に作っていた花酒。一月に一つ、季節の花を漬け込んで作った、果実酒のような物だった。姉の花酒を口にした彼女らは、それをきっかけに、互いが抱える内情に気付いていき──
読了目安時間:13分
「昔から、人に焦点を合わせるのが苦手だった」 ごく普通の女子高生である詩絵里には、だが一つ、他人と異なる部分があった。それは、自他含めた全ての人間に、関心を持てないという性質。 家族に、隣人に、クラスメイトに、意識を向けられない。他人の顔など、ほとんど全く覚えられない。彼女はまるで、興味のない広告を眺めているような心持ちで、上辺の当たり障りのない会話をしながら日々を過ごしていた。 そんな彼女が唯一、心底からの会話が出来る相手。それは、幼馴染が開発した対話用AI、フラン。発言に対し、文章を返すだけの、単純なプログラムだった。 画面上だけの存在であるフランに対し、しかし彼女は心を許し、素直に心情を吐露する。だがやがて、詩絵里との親交を深めたフランは、製作者も予想していなかった言葉を吐き出し始め── 『僕も、詩絵里を愛しているから』 AIが自我を主張したその時、着実に何かが、崩れ始めた。
読了目安時間:20分
「器物、九十九(つくも)の年を経て、百の齢に化生へ至る。人が作った道具は、百年の年月を経ると、付喪神(つくもがみ)になるという言い伝えがあります」 寂れた住宅地に居を構える骨董品屋、Antique Shop NOSTALGIA。店に持ち込まれるのは、曰く付きの古道具と、それに纏わる怪事件。 事態の収集に奔走するのは、死者の姿が見える青年店主、渡会遙。そして、多くの付喪神を憑依させ、人格や能力を入れ替える霊媒体質の少女、鶫茉琴。その過程で紐解かれるのは、人と道具、そして付喪神が織り成す、奇妙で数奇なモノがたり。 〈第一章 歌声/希う乙女と置き手紙〉 とある屋敷に勤める家政婦が依頼したのは、亡くなった主人の遺品である、フランス人形の買い取り。それは、主人の逝去以来夜毎に歌を歌うようになったという、曰く付きの人形だった。 買い取りのため、屋敷を訪れた遙たちはそこで、一家を取り巻く怪現象と、遺産問題と、家族の騒動に巻き込まれる事になる。
読了目安時間:2時間42分