「あ、あなた……」 「酒」 平太は家に帰って来るなりそう呟き、居間のソファーに腰を下ろした。 妻が缶ビールとそれを注ぐグラスを慌ただしく用意するが手が震え、床に落とし 割れた音に平太は片目を閉じた。 「グラスはいいから! 早く!」 舌打ち二回、ため息一つ。平太が居間に入って来てから続いていたそのローテーションは 喉に流し込んだビールによってようやく途絶えた。 大きく息を吐き、天井を見上げる平太。 ふわんとアルコールの匂いが漂うも鼻の奥に染みついた血の匂いは消えない。
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