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2021年3月2日更新
「3年間、ずっとずっとお待ちしておりました……クラリッサ様に再びお仕えできるのを……」 リリー、と呼ばれた少女は今にも泣きそうになりながらそう告げた。 クラリッサはとある事件によって3年もの間眠り続け、ようやく目覚めたが、以前の記憶――俗に「思い出」と呼ばれる、自分のことや人との関わりに関する記憶――を失っていた。 眠っている間ずっと庇護下に置いてくれていた叔母のユリアナから説明を受け、従兄妹達のいるクロスフォード公爵家に身を寄せることになったクラリッサ。 「こんな人クラリッサじゃない」なんて言われたらどうしよう、と不安を抱くが、クロスフォード公爵家の人々と過ごす内に、その不安が杞憂だったことを知る。 そして、クロスフォード公爵夫妻と養子縁組をすることで、クラリッサはやっと安心できた――筈だった。 「あれがウルラの後継者……?」 貴族の子弟が通う学院への入学申請のため訪れた王都で待っていたのは、周囲の貴族達の探るような眼差しと、「ウルラの後継者」という謎の言葉。見ず知らずの大人たちの目線と囁きに、クラリッサは恐怖を抱く。 逃げる様にその場から離れたクラリッサを待っていたのは――? これは、3年の眠りから目覚めた少女の成長と記憶、そして運命の物語。
2021年2月20日更新
「――おはようございます。四等階級国民の皆さん、朝食を提供します。本日の労働に備えましょう」 スピーカーから流れる無機質な声を合図に、壁のシャッターがガラガラと音を立てながら上がっていき、食事を載せた白いトレーが流れてくる。 10115(トリコ)は、四等階級国民だ。長きに渡る戦争の果てに荒廃した世界は、全国民を一等階級から五等階級までの5段階に分け、それぞれの能力に応じた仕事を割り振る「役割分担・身分管理制度」を導入した。 肉体労働を役目として任される四等階級国民は、毎日毎日毎日、同じことの繰り返し。同じ時間に起きて、同じ時間に食べて、同じ時間に働いて、同じ時間に寝る。完璧に管理された食事に、完璧に管理された労働時間と労働内容。 そんな変わらない日々を過ごしていたある日、10115(トリコ)は監督役の三等階級に呼び止められた。話の内容は、「部屋の移動」。それが、10115(トリコ)の運命を変えることになるとは、この時の彼女はまだ知らなかった。 恐怖のチョコ三題噺コンテストのお題である「恐怖」「チョコレート」「告白」を使った書き下ろし短編です。
2020年8月1日更新
人類が現実を放棄し、電子世界に移り住んだ時代。『荒廃地区』と呼ばれる場所に、老婆と一匹の猫がいた。 彼らの所有するモノを目当てに、『保護地区』から時折お客がやってくるのだが――?
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記憶も家族も失ったら……貴方はどうする?